虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

toshi202008-05-11

原題:There Will Be Blood
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン



 クラシカルな雰囲気を持つ大河ドラマであり、孤独な石油王の一代記でもある。すんげえ面白かったし、完成度という点では今年公開された映画の中でも抜群に高い映画だと思った。2時間40分があっという間という意味において、稀有な映画だと思う。けれど。



 話としては「当たり前」すぎる話だと思った。なんというのかな。自明のこと、という。ひっかかりがまるでなかった。



 ・・・。べつにクサすつもりはない。ただ、主人公の「プレインビュー」氏は、存外「普通のおっさん」にしか見えなかった。徹底したリアリストではあるが、まったく愛を欲していないわけでもない。血のつながりを求めて、だが裏切りを知って殺してしまい、涙しながら寝入ってしまうプレインビュー氏にきゅんとすることはあっても、神に対する悪魔的な資質は、あまり感じなかったんである。。
 人を好きになることはない、と言っても、きちんと情を持った行いもできるし、面倒見はいいし、要領よく仕事をする術は捉えているわけで。そういう石油屋としての職能としてあるべき資質はしっかりしているわけでしょ、この人。決して奇人変人というわけでもないような気がするのは、俺の職業と多少関係しているのかもしれないが。


 なんというのかな、「宗教」というものと真っ向から向き合えるのは、結局社会を泳ぎきる「地力」しかない。それは痛いほど知っている。うちの会社は職業柄「某宗教団体」関連会社を顧客にしているせいもあるんだけど。そういう場合、対等に付き合うにはこちらの「技術」を対価にするしかない。
 だが、プレインビュー氏の地力の半端ない強さにくらべて、その対極に置かれているはずの「新興宗教を立ち上げる若造」の方にまったく面白みを感じなった。だって、うちの会社が相手にしている「某団体」の方が何倍もしたたかだもんよ。


 プレインビュー氏の行動原理は、絶望を抱えながらも決してそれだけには陥らないしたたかさに満ちていて、人を愛さないけれど、それを露わにするほど愚かではない。それって、俺にはなんかすごく「当たり前」のもののように思えた。契約を結んだとしても魂は売らない。それは、ああいう分野の職業人にはひどく自明のことでしかない気がするのである。だから、あのラストにも別段おどろきはなかった。むしろ、ひたすら長い年月、一人の男の死を待った、そのたたき上げの職業人らしい忍耐力にこそ、感じ入ったりした。


 そんな男が、神になりたがるような夢想家の青年が嫌いなのは俺の中ではひどく当たり前のことで、結局その当たり前がラストに展開されたのを見て「解放」を感じたのはたしかであるけれども、それはある種「予定通り」のラストでしかない気がした。普通のおっさんの、孤独でありながら煌煌と光る魂の映画であり、しかしなんらその魂をゆらめかせるどころか、共鳴する存在にすらなり得ない人間をドラマの対極に置いたのはいまひとつ納得しがたく、傑作と断言しがたい物足りなさでもあったりするのでした。(★★★★☆)