虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ハンコック」

toshi202008-08-31

原題:Hancock
監督:ピーター・バーグ
脚本:ビンセント・ノー/ビンス・ギリガン


 人と交わりたいと願いつつ、疎まれ、孤独を感じながら、自分が愛される可能性を諦めていた超人の話。
 広告マンのレイはプレゼンの帰り道、渋滞によって線路での立ち往生を余儀なくされ、列車との衝突事故になりかけるところを、街で悪評高いヒーロー、ハンコックに助けてもらう。その救助の仕方が荒っぽいせいで、ハンコックは民衆の非難を受けるが、レイはハンコックに素直に礼を言い、彼を家に連れてきて、妻・メアリーや、息子のアーロンと食事をともにする。恩返しとしてイメージアップ作戦をハンコックに提案するのだった。


 はじめて。である。


 これほどまでにウィル・スミス演じるキャラクターに共感したの。もう、なんつーか、「ああーわかるわー」と思う。ハンコックは記憶がなく、なぜか自分は超人である、という認識だけがある。そして彼が社会で認識されるには「ヒーロー」稼業をするしかない。だが、愛された記憶もなく、愛した記憶もない男が力を持てあましながら生きるには、現代社会はあまりにせちがらい。力のコントロールが利かない→酒をあおる→さらにちからの制御ができない→迷惑をかけ蔑まされる→酒をあおる、の悪循環でどんどん追い込まれる。その姿に、もう涙が出ましたよ。
 もう。俺は。愛されない。廃車になったバスで暮らしながら、彼は絶望的に世界を眺める。死ねるもんなら死にたい。だが・・・死ねない。どうしたらいい。そんなときに、レイからの提案である。彼はこれをどう思ったろう。多分、こう思ったのではないか。これは「運命」だと。


 死ねないなら、生きるしかない。彼は「運命」によって本来あるべき「ヒーロー」としての姿を取り戻す。


 そして彼は、運命を享受するか、そうではない道を模索するか。その2択を迫られる。


 終盤の展開は、ヒーローものの定石からはかなりズレた展開だし、転調の過ぎる話なのだが、筋が通っていないわけではない。結局彼は一度、人々に愛される経験を経ねばならなかった。彼のイレギュラーはある一件によって記憶を失ったことにある。そして、「彼女」との出会いがあっても記憶は戻らない。
 「運命の女」は新たなる人生を歩んでいた。彼が本能で好きになったとしても、それはもはやかなわない。彼は、「愛し愛され、やがて死ぬ」という可能性を捨てて、「ヒーロー」として生きることを決断する。自らの出自を受け入れ、孤独を受け入れて、彼はヒーローとして生きる。そう決めた。


 「運命」はまたどう転ぶかはわからない。だが、死ねない世界で彼は、しばらく孤独とともに戦おうと決めた。その心のありようを思うとき、自分は素直に「よかったね、ハンコック。ほんとよかった」と心安らかにスクリーンを眺めていたのでした。(★★★)