虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ロイヤル・アフェア/愛と欲望の王宮」

toshi202013-05-18

原題:En kongelig affære
監督:ニコライ・アーセル
脚本:ニコライ・アーセル/ラスマス・ヘイスターバング
原作:ボーディル・スティンセン=レト



 人に歴史あり。国にも歴史あり。
 そりゃあ様々な過程を経て、今の「国」があるのは知ってるけど、やっぱりね・・・本当ね、世の中知らないことばっかりだな。どこの国にも歴史があり、それらを経て、というごく当たり前のことを改めて思ったりした。
 この映画は18世紀のデンマーク王室を舞台に、王と王妃に愛された侍医の流転の運命を描いた物語。


 キャロライン・マティルダアリシア・ビカンダー)は子供たちに手紙を書いている。今まで自分の人生に起きた話を。

 彼女は英国王室直系の娘で15歳で他国の王に嫁ぐことになった。彼女はその日を夢見て生きてきた。相手の殿方はどんな人なのだろう。期待に胸を躍らせてやってきた異国・デンマーク。その王・クリスチャン7世(ミッケル・フォルスガード)は教育係が粗暴であったために、統合失調症のような重い精神病にかかっていた。彼女は王の振る舞いに幻滅を感じ、妊娠・出産以後は、彼との接触をほぼ断っていた。
 そんな中、王は諸国を遊説して回っていたが、その途上で病が悪化し足止めを食っていたため、新たに随行医が必要となった。不遇を囲う啓蒙主義のリーダーでもある貴族が自身の復活を期して、懇意にしているドイツ出身の町医者を侍医に推薦した。その男こそ、ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセ(マッツ・ミケルセン)であった。
 彼はすっかり王のお気に入りとなり、王をひそかに「馬鹿」扱いする王室や貴族の人々の中で、ストルーエンセだけが王の孤独と隠された知性を理解する者となった。彼は王子に種痘を行い成功させると、王宮内でも侍医としての信頼を勝ち得る。



 当時のデンマークは検閲制度が残り、枢機院と呼ばれる貴族の議会が全てを取り仕切り、精神を患った王の出る幕はなかった。国内は都市は不衛生な環境が広がっていて、不平等で理不尽な貴族の独善がまかり通っており、市民や農民はただそれに甘んじるほかはなかった。ドイツ出身で啓蒙思想に傾倒していたストルーエンセから見て、それはあまりにも時代錯誤に見えた。
 彼は王女とも次第に懇意となり、やがて、2人は恋に落ち、愛人関係へと至る。彼女から「あなたが助言すれば王は言うことを聞くわ」という一言で、理想家肌の一介の町医者に過ぎなかった彼に、ほのかな「野心」が宿ることになる。


 この「国」を変える。
 自分にはそれを行うことが出来るかもしれぬ。彼は王の信頼を勝ち得、やがて、王を傀儡として「演劇をするかのように」振る舞わせ、裏で彼は王の言うべき台詞を書き上げていく。王として「振る舞う」ことで、王の精神は少しずつ快方へと向かい、「自身の意思」で枢機院の解散を宣言。ストルーエンセを中心とした「内閣」による政治へと転換する。
 絶大な「権力」を手に入れたストルーエンセは、やがて王から権力を簒奪し、この国の改革を急激に進めていくのだが。その性急さが彼の求心力を失わせていく。


 そして。王女は「妊娠」する。明らかにその子は「ストルーエンセ」の種であった。彼らはその事実を深く秘匿していたが、しかし、それは国内で公然の秘密となっていく。その事がストルーエンセに悲劇をもたらすこととなる。




 とにかくマッツ・ミケルセンの「イケメン」な「人たらし」な部分が面白い。「野心」を表には出さず、王や王女の心を掴んでいく、その圧倒的説得力。そして、精神を病んで孤独を囲う王を演じるミッケル・フォルスガードのチャーミングな奇人ぶりも印象に残る。
 恋も知らず、愛のない結婚によって孤独に過ごすキャロラインが「イケメン」で「知性的」な医師にときめいていくのも致し方のないことである。しかもマッツ様だしね。これはね、仕方ないですよ。うん。


 やがて、この「運命の必然」とも言うべき、王と王女と侍医の「三角関係」は、一つの「悲劇」となっていく。マッツ・ミケルセンの「善」も「悪」も内包し、一見どちらかに揺れたかはわからぬながらも、彼が「野心と愛」「理想と現実」の狭間でゆれていく演技は必見である。
 この映画は「王女から見たストルーエンセ時代」を描いている為、史実と比べるとややキレイに描きすぎているようであり、実際この「禁断の恋」はデンマークの「汚点」として長く扱われてきたようである。


 それでもなお、王宮で3人の孤独な魂が出会うことで、国そのものを変え、やがてデンマークの歴史において、「近代化」をもたらす重要な転換点となっていくことを描いたこの映画は、デンマーク史に詳しくない人間にとっては実に興味深い。この映画は歴史の裏側でうごめく、王宮という荘厳な密室の中で行われた「国そのもの」を変えていく「人間」の悲喜劇を描いた作品なのである。(★★★☆)