虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「アズールとアスマール」

toshi202007-08-09

原題:Azur et Asmar
監督・脚本:ミッシェル・オスロ
音楽:ガブリエル・ヤーレ  日本語吹き替え演出:高畑勲


 寓意性は高いが、独特の世界観と演出リズムをもつ、「キリクと魔女」で有名なフランスのアニメ作家・ミッシェル・オスロ監督最新作。


 鮮やかな疑似3Dの背景の中に、リアルな3DCGで作られた登場人物が重ねられる、という独特の手法で作られた本作だが、演出自体は「キリクと魔女」とさして変わっていない。3Dのキャラクターでありながら、2Dアニメとして映える演出が追求されている。昔、ポリゴンを使いながら横スクロールアクションに特化したテレビゲーム*1があったが、それを映画に応用して最新技術で色彩をブラッシュアップした感じ。これが予想をはるかに超えて美しく、アニメーションとしてもかなり面白い独特の効果を生んでいる。


 とある国の領主の家。美しい金髪に見事な碧眼を持つ領主の息子アズールは、乳母に預けられて育てられた。乳母は褐色の肌と黒髪を持つ異国の女性で、彼女にはアズールと同い年のアスマールがいた。
 アズールとアスマールは同じ女性の乳で育ち、同じ子守唄を聴き、同じ話を聞きながら、幼年期を過ごす。彼女が唄う「ジンの妖精」の歌が彼らは大好きだった。

 アズールは成長すると乳母と離れ離れにさせられ、アスマールとは違う教育を受ける。だが、二人は喧嘩しながらも助けあう、兄弟のように仲の良い二人だった。だが、絶えず仲良く乳母の息子と仲良くするアズールに業を煮やした領主は、アズールを、乳母との別れもないまま寄宿舎学校に入れると、乳母をクビにして息子ともども放り出す。


 やがて立派な青年として成長したアズールは、乳母の歌っていた「ジンの妖精」の逸話を信じて父の反対を押し切り、海を渡る。やがて、たどりつく異国の地でアズールが出会ったものとは…。




 うむう。二度見て二度目でうなった。


 いや、最初字幕版で見て、その後吹き替え版で見たのだけれど、断然吹き替え版が良い。自国の言葉と異国の言葉、というのが、この映画の演出でかなり重要なのだが、字幕版だとその違いが伝わりにくい。高畑勲の手になる吹き替え版の演出も、原語版の雰囲気をうまく日本語に置換できていて素晴らしいし、この映画のテーマがハッキリすると思う。





 異国の言葉に親しみ、異国の友達と幼年期をすごし、異国の物語にあこがれ、異国へ行くことを夢見て育った青年が、いきなり出会うのは、異国の現実と、自分の常識が何も通じない苦しみ、という入口は面白い。青い目をした人間は不吉」という風習によって差別を受けた彼は絶望し、盲目の人間として、異国の地を生きようとする。
 そして彼は物乞いのクラプーと出会う。盲目を決め込むアズールに、彼は異国の悪口を吹き込んでいくが、アズールは、眼だけでは決して手に入れられなかった「ジンの妖精」に会うためのカギをゲットする。そして、彼は、耳に聞こえた声によって故国で富豪となった「乳母」と再会する。


 やがてアズールは成長したアスマールとも邂逅する。が、アズールの父に屋敷から放出されて以来の不幸の連続で、彼は異国の風習に染まり、アズールを不吉呼ばわりするのだった。



 深刻な移民問題をはらんでいるフランスの現実を照射しつつ、アフリカで育った自身の人生をも反映させながら、異国に渡った青年が「異人」として生きる中で、乳母やアスマールが自国で見た現実をも追体験させていく。そうして、同じ環境に育ちながら違う人生を歩んだ2人は、ジンの妖精をめぐる冒険をともにするなかで、少しずつお互いを理解していく、寓意性が高いながらも、現代性を失わないあたりの、作家性はさすがと言える。
 異国への「幻想」、それを打ち砕く「現実」に出会いながらも、それでも美しいものはあるのだとアズールは知っていく。相手の国、そして人の「汚点」を認識しながらも、相手の美点をたたえあう精神こそが、「ジン」の妖精に出会うカギ。


 本当の勇気とは、「異なる者を認め、違うことに敬意を払う」ということ。これは決して日本人にとっても、決して他人事な真理ではない。


 そんな寓話を魅力的なキャラクターと、独特な世界観で彩っていく。特に、シャムスサバ姫は姫でありながら、「キリクと魔女」のキリク並の運動能力*2と、好奇心旺盛な性格、人種、身分の分け隔てなく接する賢さを持つ少女で、かなり愛らしい。天文台での一連の姫の演技(アクション)は、かなりアニメ的に見ていて本当に愉しい。
 異国描写もかなり作りこんであり、画的な密度も濃いので、思わず見入ってしまうし、冒険の場面も「ICO」*3みたいに戦闘よりもパズル性が高く、かなり楽しい。


 ただ、個人的に、「ジンの妖精」の性格や、なんの伏線もなしに唐突に出てくるある登場人物が多少気に入らないんだけど(何様感バリバリw)、まあこれは話の都合もあるし、仕方あんめえ。姫の愛らしさとクライマックスのダンスシーンに免じて、相殺としよう。


 ま、なにはともあれ、この日本のアニメでは決して出会えない、独特の世界観と美しい映像は一見の価値ありと断言できる秀作と思います。(★★★★)

*1:昔、「フラッシュバック」というアクションアドベンチャーゲーム洋ゲー)が大好きだったんだけど、それをちょっと思い出させる感じ。

*2:「ミスター・インクレディブル」のスピードくんみたい、って言った方がわかりやすいかな?

*3:PS2のアクションRPGね。確認。