虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ホットロード」

toshi202014-08-18

監督 三木孝浩
脚本 吉田智子
原作 紡木たく


 正直に言いますと原作はまったく知らずに見に行きました。はっきり言いましょう。能年玲奈さんを見に行きました。


 で、見終えて思ったのは。「なんだこれは。」と。「なんだったんだろう」という疑問でね。


 少女漫画が原作で、能年玲奈さん演じる少女と三代目なんちゃらって言うEXILEの弟分グループに属している子演じる暴走族の男のラブストーリーって前情報だけはあったんですがね。
まったく映画としてのリズムがおかしい。なんというんだろう。人物へのカメラの寄り→切り替えして人物へのカメラの寄りの繰り返し→そして、遠景で延々映る風景、というこの演出が繰り返される。暴走族の少年たちが出てくる映画にもかかわらず、彼らはささやくようにしゃべり、モノローグは能年玲奈さんのなんとも舌ったらずなナレーションで。
 大変珍妙な作品になっていたのである。


ホットロード 1 (集英社文庫―コミック版)

ホットロード 1 (集英社文庫―コミック版)


 で。原作をね、買って読んでみてその辺の疑問が一気に氷解したのは。熱心なファンがいる作品であるがゆえに、少女漫画である原作の雰囲気をそのまんま引き写して映画にしてみせたということなんですね。
 80年代のいわゆる、暴走族が全盛の時代で、自分が望まれた子供ではないと感じている14歳の少女が、死んだ父と結婚する前から惚れあっていた男と寄りを戻しつつある母親に反抗するために、徐々に非行への道へと足を踏み入れていく。その中で、暴走族の集会に行った少女は、一人の暴走族の少年と出会う。
 古典的な「健全な王子様みたいな男と出会う女の子」の話ではなく、孤独を抱えて「普通」ではいられない少女が、学校にはいないタイプの男の子の魅力にひかれる一方、ヤンキーの方は少女の中にある「純粋さ」に心惹かれるという話で。
 まるですべてのコマが風景のように切り取られ、そこに人物がふわっとまぎれているような画で、そこに少女の心情がモノローグで語られる。こういう演出って西原理恵子も多分に影響を受けてそうな、そんな「独特の空気感」を持った作品なのだと理解はしたのですが。



 うーん。それを知った上で、どうにも首をかしげてしまうのは、監督の意図はわかるんだけど、それがうまく映画とリンクしてないのではないか。
 原作の空気感を生み出すための演出で、「暴走族」という題材を映画にする際のリアリティを犠牲にしている。あんなささやきあうようにしゃべる暴走族なんかおらんしな。全体的にあの時代の暴走族のイモっぽさや、見た目的にも演技としてもキャラクターの屈折が感じられない。何よりも、あの原作ではバチっとはまってる画とモノローグのバランスが、映画だと妙におさまりが悪いと言うか、説明過多に感じる。
 そして。これだけは言いたくなかったが、根本的な事を言う。


 能年玲奈の資質が、この映画のヒロインに向いていない。


 なんつったらいいんだろう。おそらく彼女が本作のヒロインに抜擢された理由って、原作どおりに演出するためのパーツとしての「見た目の透明感」なのだと思うのよね。ところが、これが声の演技を足すと、監督の意図とうまくリンクしない。アンバランスなところが能年玲奈の魅力であり、難点でもあるんだな、と改めて気づかされた。朝ドラの「あまちゃん」で彼女が十全に天野アキでいられたのは、脚本の宮藤官九郎能年玲奈という存在にあわせて、脚本を書いたからに他ならない。
 彼女の声の演技は口跡が独特だ。なんと言ったらいいんだろう。真面目な演技をしていてもちょっと「可愛く」または「面白く」聞こえる。たとえば険のある感じで呼び捨てで年上のひとを呼ぶシーンがあったとしても、彼女の口跡の「可愛さ」でその台詞の「険」の部分が相殺される。結果として真面目な台詞でもちょっと「面白く」聞こえる。コメディでもある朝ドラならばそれでも良かった。だが、この映画だとそれはこの映画の意図であるシリアスな「空気感」に少なからぬ不協和音になる。
 この映画でも「ババア!」と母親を呼び捨てにしたり、面罵したりするシーンがあるわけなんだが、これがね、あんまり真剣に受け取れない。なんかね。ふざけて言ってるように聞こえる。その能年玲奈独特の個性はシリアスな場面で変な作用を起こしているように感じられた。
 その能年玲奈独特の口跡はモノローグでも全開で、彼女の個性は監督の目指す空気感とは水と油なんじゃないのか、と思ったりした。


 能年玲奈という女優はまだ天然ものだ。彼女には女優としての幅があるわけではない。彼女はまだ自分の個性を個性のままに残してそこにいる。この独特な個性の女優をどう使いこなしていくのかは、監督次第ということになる。そのことを改めて感じさせる映画ではありました。(★★☆)