「ソニはご機嫌ななめ」
原題 Our Sunhi
監督・脚本:ホン・サンス
めったに学校にやってこないで、周囲とも1年近く音信不通。「行方不明」と言われていた女子学生・ソニ(チョン・ユミ)がいきなり大学にやってきた。アメリカ留学の為に教授に推薦状を書いてもらいに来たのだという。ソニは推薦状を後日受け取るが、推薦状の内容が気に入らずに、もう一度書き直すように教授に頼み込む。
久しぶりにソニに出会った、教授、先輩、元彼は三者三様に彼女に惹かれていく。
ホン・サンス監督の作品は初めて見たのだが、なるほど、面白い。人気があるのもわかる気がする。同時公開された「ヘウォンの恋愛日記」も面白かったのだが、ぼくは本作の方が面白いと思ったのは、男達が恋愛が始まる以前のふわっとしたつかまえどころのない気持ちを、ソニがそれぞれにくすぐっていく描写が実に面白いからだ。
ソニは基本的に自由気ままだ。自己中心的で勝手でもある。周りとのコミュニケーションもうまくなく、共同作業も苦手。しかし、音信不通という不義理をしていたにも関わらず、コミュニケーションの中で忘れ去られることもなく、彼女を皆忘れがたく思っていたりする。不思議な娘である。
基本的には1対1の会話劇の中で物語は展開する。1人のヒロインと3人の男。ヒロインと男との会話の中で、ソニは時折ふっと「あなたがいないとダメなのよ。」という空気を醸し出す、庇護欲をそそる一瞬がある。元カレは再会して一発で彼女への未練が再燃してしまい先輩に相談する。教授は会話する中で自分が彼女を特別に思っていたことを、彼女の「誘導」によって自覚させられて、そういう気持ちになったことを後輩に話す。
この映画が面白いのは次第に、それぞれの会話が「あれ?この話どっかで聞いたぞ」という内容の話になっていくところだ。人間というのは直近の会話に左右される生き物である。しかも本人は自覚がない。言葉が少しずつ伝言ゲームのように伝わって、話す内容も恋する理由も、まるで伝染するかのように3人の男はソニに恋をする。
その辺の会話の妙。3人の男が1人の女性に翻弄される姿はどこか、1人の芸者に3人の男が「結婚の約束(起請文)」をもらってその気になる落語「三枚起請」の男達に通じる滑稽さがある。
それぞれがそれぞれのソニへの気持ちを知らないままに偶然ある場所で会う3人の男。3人寄れば自然と出てくるのはソニの話。恋の行方が気になるところでスパッと切る洒脱な終わり方で、観客の想像に委ねるラストも気持ちいい。翻弄される「男達」と自由気ままな「彼女」の本当のところ。それは風のように去って行く彼女の姿に委ねられているのだろう。
で、感想をまとめるとですね。「あー、俺もソニちゃんに翻弄されたいなあ。」です(身もふたもない)。男はみんなバカなんです。大好き。(★★★★)