虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ピアノの森」

toshi202007-08-06

監督:小島正幸 原作: 一色まこと 脚本: 蓬莱竜太



 テレビアニメ版「花田少年史」の・・・と書くべきなのでしょうが、未見なので、個人的には「MASTERキートン」「MONSTER」の小島正幸監督最新作。


 原作は未読。


 ピアニストになるために英才教育を受けてきた修平は家庭の事情で、地方の小学校へ転入する。いじめの対象になりそうな時、助けに入ってくれた少年・カイと出会い、彼らは互いにピアノを弾くという共通点で意気投合。修平は、カイに、いじめっこが口にしていた「森のピアノ」の場所へ案内される。だが、そのピアノは普通の人には音が出せない、カイだけが弾けるピアノだった・・・。


 というわけで、ナチュラルボーンな才能を持つ少年が、師匠的存在と出会うことで、才能を開花させていくおはなし。


 うん。

 まずキャスティング面。意外な健闘を見せたのは主人公・カイを演じる上戸彩。カイは気が強くてガサツだけど中性的な雰囲気を持つ少年、という独特なキャラクターなのだけれど、そこに彼女の声がピタッとはまった。つーか、彼の格好は貧乏なのでランニングシャツなのだけれど、そこに上戸の声が重なると時折イノセントな色気があったりして、なかなかにエロい。
 狂言回し的な役割の修平を演じる神木隆之介くん*1は声変わりがほぼ完了しつつあり、かつてあった中性的な色気はのぞめないのだが、抑えた演技でおとなしめの少年を手堅く好演。
 そしてかつての天才ピアニストにして、今は一介の音楽教師の阿字野演じる雨上がり決死隊・宮迫が、さすがの全編シリアス演技で押し通して圧巻。声優としての力量は「ミスター・インクレディブル」のシンドローム役で証明済みだが、今回カゲのある二枚目でもイケることを披露。引き出し多いな。


 そしてすばらしいのが演奏の場面。マッドハウスの作画技術を結集した(と思われる)手の演技が圧巻。これがすごい。テレビアニメ版「のだめカンタービレ」ではCGで逃げていた演奏場面を、ほぼきっちり作画で乗り切るという離れ業を披露。リアルなのにアニメ的な迫力を失わない演奏場面は必見。
 

 というわけで、さすがベテランの域にある監督だけに、演出も作画も及第。・・・なのだが、肝心の脚色に難がある。というか、普通に原作の展開を追いかけようとすれば、どうしても駆け足で舌足らずになるのは目に見えている上に、物語が未整理のまま見切り発車した感が強い。
 語り手となる人物が複数いるのは、映画としては煩雑だし、クライマックスとなる場面で唐突に新キャラ(便所姫)が登場するのは、いくらなんでも余計な遠回りをしているようにしか思えない。というか、修平が全国レベルで力量が鳴り響いてる秀才ピアニストであることが、コンテストの場面でなんの伏線もなくいきなり示される、というのは、彼の狂言回し的な役割を考えると、作劇としてありえねーだろ、と思う。


 原作の展開を追いたいのであれば2クールのテレビシリーズが適当だと思うし、映画にするならば、もっと大胆に刈り込んだり接ぎ木する必要が生じるのだけれど、それが出来ていないのは非常にもったいないと思う。
 王道な感動をさそう題材だけに、映画としての脚本が練り込んであれば、と思わずにはいられない、佳作。(★★★)

*1:上戸とは「インストール」以来の共演・・・かな?