虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「雪に願うこと」

toshi202007-06-01

監督:根岸吉太郎


 うちでとっている朝日新聞が主催している上映会の券を手に入れて、「ライアンを探せ」との二本立てだったんだけれど、これ一本だけ見るためにいそいそと船堀にある区の施設の大ホールで鑑賞。



 北海道の道産子をつかったばんえい競馬を舞台にした話。東京で夢やぶれて故郷の北海道に帰ってきた若者(伊勢谷友介)。開催されていたレースで彼は一頭の馬に全額をかけ、すってしまう。ばんえい競馬の競走馬は賞金百万円稼げないと馬刺しにされる。その馬に向かって、山崎努演じる老人がぽつりと馬に向かっていう。「馬刺し」。
 その馬の馬名は「ウンリュー」という。女性ジョッキー(吹石一恵)が乗っているのだがなかなか成績が上がらない。その若者・学は兄・威夫(佐藤浩市)が経営する厩舎に転がり込むのだが、レース中は関係者は外へ出ることが出来ないきまりだった。流れで学は厩舎で働く羽目になる。そこで彼は「馬刺し」呼ばわりの「ウンリュー」と再会する。


 主人公は東京で成功するためにネット通販のベンチャー起業家だったが、薬事法にひっかかって死人まで出してしまったことがきっかけで、逃げ回っている。彼は資金を出してくれる女性と結婚するために「おふくろがいないことにしてくれ」と兄貴に懇願し、それ以来喧嘩別れしている。
 リストラされたサラリーマンじゃなくてベンチャー起業家、というあたりで現代な感じを出そうとして多少すべってるとこがおかしい。「六本木で妻と飲み歩いて楽しかったなあー」とか借金の肩代わりしてくれた相手に言う主人公・・・。「敗残者」ゆえに、「ウンリュー」の世話に没頭する、という流れなんだけれども、この主人公にあまり共感するには至らないところが、この映画の難しいところだ。


 だけど、朝の厩舎の、朝日の中に馬の吐く息が白く煙る風景が美しい。この画がとにかくいい。その中での馬との交流のなかで、主人公が癒されていく、という展開自体は悪くない。役者の顔ぶれもよく、特に山本浩司演じる学の元同級生の同僚がいい味だしていた。小泉今日子もここ最近、「疲れた女」の演技が堂に入るようになってきて、いい案配である。
 この映画は「ウンリュー」が馬刺しになる運命からのサバイブを賭けたレースに出場し、勝利するまでを描いている。だが、この映画の主眼が勝利というよりは、バブリーな東京に踊った男が自分を取り戻す話、という形を取っている。
 彼がいくら地に足ついてない仕事をしていたからと言っても、彼は東京でなら東京で積み重ねたことがあるだろう。相対的に東京で積み重ねた経験と厩舎での経験の対比を入れれば、よりドラマは静かな感動を浮かび上がらせたろうが、それを怠ったがゆえに、もう少しのところで感動に届かないところが個人的に惜しいところであった。(★★★)