虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「王と鳥」

toshi202006-08-04

原題;Le Roi et l'Oiseau
監督・脚本:ポール・グリモー 共同脚本:ジャック・プレヴェール
公式サイト:http://www.ghibli.jp/outotori/


 むかしむかし、あるところに一人の王様がおりました。


 その国は砂漠にかこまれたような土地でそこに、高く美しいお城が立っているのでした。王様は大変キモメンであられまして、「みんなオデのことが嫌いなんだ」と国民すべてを憎み、圧政とを敷いて、国民はそんな王様を憎んでおりました。狩りが大好き。贅沢大好き。気に入らないやつは抹殺です。今日も肖像画を描いた絵描きを「キモメン通りに描いたから」と抹殺してしまいました。
 しかし、王様は孤独でした。犬を一匹飼っていましたが、王様の心は癒されません。そんな彼が恋に落ちました。相手は羊飼いの美少女。ただし絵。二次元美少女に萌え狂ってしまわれたのです。


 そんな萌え上がる王様の心は奇跡を起こします。彼の秘密の空中回廊にあるその部屋では、みんなが寝静まると絵の中の人物たちが動き出すのです。「羊飼いの少女」は、隣の絵の中にいる「煙突掃除の少年」に恋をしていました。しかし、「肖像画の王様」が彼女に結婚を迫ります。二人は絵から抜け出して逃避行を開始します。
 一方絵の中の王様も行動を開始。なんと本物の王様を抹殺!王に成り代わり、国を挙げて二人の追跡を開始する!


 王を憎む鳥の導きで、城からの脱出を図る若き二人の運命や如何に!


 ・・・とシュールに始まるこの映画は、もとの邦題を「やぶにらみの暴君」といい、1947年から製作を開始したが、資金難に陥って未完のまま1955年に一般公開される。その独自の世界が宮崎駿高畑勲に多大な影響を与えた・・・と言われる作品である。だが、その内容を気に入らなかったグリモー監督がフィルムの権利を買い取り、「やぶにらみ」では入りきらなかった結末までを含めて、79年に「王と鳥」として完成させたのが本作であるが・・・。




 想像以上に破天荒な映画であった。




 鳥が普通にしゃべって王様をおちょくるとか、絵の中の人間が出て脱出を図り、そとの世界の美しさに感動したり、ドタバタを交えながら人工的なお城から脱出する「カリオストロの城」のオリジンを感じさせるあたりまではわりと、穏やかにみていたのだが、架空の王様が本物を殺して成り代わる、という展開から、ざわざわっとしたものを感じさせ始める。


 つーかタイトルにもなってる王様、序盤で殺すか。予想外すぎる。
 さらには二人が逃げ出して、下層都市に行ってからの展開は想像を超える展開が待ち受ける。


 そこは、国民が暮らす下層世界。国民は長い間、その都市に押し込められて生活していた。彼らは太陽も空も星も、鳥すら見たことがない生活を強いられていたのだ!!これはまさに、フランスの忌まわしい記憶。ナチスドイツ占領下のフランスでの戯画化か。つーか、恐るべき管理社会!
 そう、この映画は「ディストピア」映画だったんである!あまりの展開に驚愕した。しかもナチス占領の記憶もまだ鮮やかな頃に作られ始めたせいか、異様な説得力がある。


 しかも王様は2人を見つけるために秘密兵器を引っ張り出して二人を捜す。なんと巨大ロボ!!いいも悪いもリモコン次第!
 「鉄人28号」か、はたまた「ジャイアントロボ」かっ!すげえー!フランスアニメすげえええ!


 そして、ロボに捕らえられた少年が猛獣たちが腹をすかせた中に放り込まれそうになり、少女は少年の命を救うために、王の囚われの身となり、鳥と少年は管理社会に放り込まれた。来る日も来る日も王の像の大量生産。2人は逃げ出すが、彼らがそこは猛獣のいた広場の中。


 だが、木の上から音楽が聞こえる。そこには盲目の音楽家が曲を奏でていた。その曲に、猛獣たちはうっとりと聴き惚れている。彼の存在が少年と鳥の、一発逆転の扉を開くのであった!



 抑圧・・・そこからの解放。そのための破壊!革命!!そして、その戦いは音楽によって導かれる!!


 フ・・・ランス!


 さすがフランス!しかも、その破壊たるや!徹底した破壊。再生なき破壊!大友克洋かあああああ!



 すげえ。いや、変でシュールでありえねえ話。今見れば珍品と言われても仕方がない作品ではあるが、なんだが、この多くの日本のアニメの源流とも言うべきこの強烈なイメージの数々が、50年以上前からフランスで作られ始めた作品に眠っていたという事実に驚愕する。
 ピーター・グリモーおそるべし!
 大戦後のアニメを作れる歓びを爆発させた、その抑圧と解放の物語における、その天才的イメージにこそ、この映画の真の価値があるのだろう。一見の価値ある作品であることは、間違いない。(★★★★)