虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「時をかける少女」

運命の岐路

監督:細田守 原作:筒井康隆 脚本:奥寺佐渡子 背景:山本二三 キャラクターデザイン:貞本義行
公式サイト:http://www.kadokawa.co.jp/tokikake/


 結論としては自転車の整備はちゃんとしようね、死ぬよ。という話だ。


 うん。ちがいますけど。


 このヒロインは開幕15分くらいで死んでいた。ブレーキの利かない自転車ほどの恐怖はない。と自転車によく乗ってる俺は思うのである。ま、それはともかく死ぬはずだった彼女は生きていた。なぜかっつーとタイムリープができるようになってしまったからだった。


 この映画に出てくる登場人物、というのは、まあ、それほどリアリティというものに頓着してない感じはする。ヒロインのマブダチは男二人(秀才とイケメン)で放課後になると、部活動するでもなく野球場でキャッチボールをしたりしてる。という設定は、「フルバ」かっつの、みたいな少女漫画的願望のようなもんであるし、その二人に思いを寄せる彼女の女友達&メガネっ娘(+小姑みたいな親友二人)の後輩の異様な可愛さとか、例によってヒロインの妹の見事な萌え少女っぷりとか、うーんまあ、なんつーか。アニメだから許されんだよね、という感じである。
 この映画、決してリアルな話などではない。脚本の奥寺佐渡子の願望がつまったような話ではある。その上で物語的説得力は、実はヒロイン・真琴の造形と、演出の力に立脚している。


 ネボスケ。ドジ。自覚無し。驚くほど脳天気で、かと言って体育会系な明朗さやら、文化系的屈折を獲得してるわけでもない。基本的に考え方がボンクラ、だけど根がさばさばしていて気持ちがいい、すらっとした容姿と整った顔立ちはあたりまえのようにもってる女の子。


 そんな女子高生が、タイムリープを覚えたら。


 というシチュエーションコメデイが本作である。コメデイ?うんコメデイ。


 というわけで、この娘の行動原理は、基本的にボンクラで、のび太みたいな無駄遣いっぷりである。妹に喰われたプリン喰うために2回。小テストでいい点取るために使ったり、カラオケで歌いまくるために際限なく使い、鉄板焼きを食すためにもう1回。映画で描写されてる以外にもいろいろやってるらしく、そのくっだらない思考を即座に実行に移す、なんか、繰り返しのシチュエーションコントみたいに紡ぎ出される、小気味いいほどのダメキャラっぷりが最高に愛らしい。


 だが、やがて、そんな楽しくて、夢のよーうに楽しい時間に暗雲がたれ込め始める。
 きっかけは男友達の片割れ、コースケ(秀才のほう)が告白されたことだった。友情のようにおもってた関係が、バランスを失い始め、もう一方のチアキ(イケメンのほう)が真琴にさらっと告白するに至る。
 彼女はタイム・リープで「なかったこと」にしてしまうが、彼女のこころには、彼の「告白」は確実にアリになってしまう。その日から、チアキと真琴の間にはギクシャクした空気が流れ始める。そうなると、徐々にチアキとの関係は疎遠になっていく。


 ヒロインの身から出たサビであるとは言え、やがて、彼女はその「チカラ」に翻弄され始める。チアキが女友達のユリと付き合いだしたことで、コースケとともに行動することが増えた真琴はその関係を疑われ、コースケに惚れている後輩のために、人肌脱ごうと、映画の冒頭である「その日」へと戻ってきてしまう。


 だが、それが、重大なアクシデントを引き起こすハメとなる。



 この映画、決して完全無欠の話ではない。終盤の展開はややご都合主義の感もあるし、ヒロインの恋愛感情を認識するに至る過程が、もう一押し足りない感じはした。友情と恋愛の狭間からもう一歩抜け出す感情の発露が見あたらない感じ。主人公のメンタリテイはそんなに変わっていない感じがしたのだよね。
 腹の底にズーンとくる感じがないのは、恋愛を主軸としたわりには「恋愛」がどこか「軽い」からだとは思う。「友情」でも差し支えない感じはしたかな。


 それでも、設定の不自然さや、物語の疵を演出によってねじ伏せる快感が、このアニメーションにはある。このライトな物語に、ハードに孤独な物語を志向する細田監督が寄り添うことで、映画に一定の重みが生まれたことは素晴らしいことだと思った。特に死の予感を描くときの細田監督は、実に楽しそうに画面が躍動するので、面白い。彼特有のダークさが、物語の演出として映えた瞬間であろうか。
 貞本キャラはあまりに顔が綺麗すぎる感はあったけれど、細田監督が絵コンテでそれをうまいこと人間臭い魅力を付加していく辺りは、演出家の力量だと思う。(あえて「耳をすませば」の、と言おう)山本二三の背景ともなじみ、さらっと映画であることを獲得できている辺りが、細田守の才能の片鱗であろう。


 細田監督の最高作だと思った。傑作まであと一歩の良作。(★★★★)