虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「椿山課長の七日間」

toshi202006-11-25

監督:河野圭太 原作:浅田次郎 脚色:川口晴


 あ、これ、河野圭太監督の二作目なのか。三谷ドラマでは割とよく演出しておられて、名前は存じていたのだけれど、デビュー作「子ぎつねヘレン」はスルーしてしまったので、映画監督「河野圭太」初体験となるのだけれど。


 話は、地域を統括する天国と地獄の間にあるお役所「中陰役所」から始まる。厳しい審査を経て、初七日までの三日間限定で、現世に戻れる権利を獲得した、家族に対して何も準備出来ないまま急死したデパートの課長、本当の親に会いたい小学生の少年、組員のその後を心配するヤクザの親分の3人。自分がその人物と知られたら「GO TO HELL」であると戒めとして暗に脅されつつも、自分とは「全く正反対」の姿の義体を用意されて下界に転生する、
 課長・椿山氏の義体は・・・伊東美咲似の若い女性の姿だった・・・・。「彼女」は保護者義務のある、転生した志田未来似の「少女」を連れて、自分が知らない「重大な事実」をさぐりに、街へと繰り出した。



 さすが「シチュエーション・コメデイ」は河野監督の本領で、しかもさりげなくいい人しかでてこない群像コメディの趣もあり、まずは安心して見られる。ドラマ演出歴も長く、「演技」の出来ない人間とも多く関わってきた人なだけに、「西田敏行」の外見が「伊東美咲」だったらおもろくね?、というだけでキャスティングされたであろう伊東美咲の扱いもお手の物。
 どうしたか、というと、「西田敏行」への演出である。彼は真似しやすい、抑えめの演技に終始させることで、「中身が中年課長」という難役を伊東美咲が演じても、それほど違和感のないように仕立て上げた。だから、思ったよりは普通に見られる出来映えにはなっている。


 この映画の魅力はなんといっても、自分の死後、自分の死をどう思っているのか、というのを手軽に目の当たりに出来る点にある。誰にでも、「自分が死んだらどうなる」、という好奇心がある。この映画は別人になりすますことで、親しい人々の本音を聞き出していく、というスタイルで物語が進行する。
 
 もうひとつ面白いのは自分とはまったく逆の見た目になるという設定によって、奇妙にねじれた人間関係が発現することで、志田未来似の姿で転生した「少年」は、椿山課長の息子・陽介(須賀健太)と仲良くなる中で、陽介に淡い初恋の色が出始める、などという展開があるわけですよ。なんか妙にむずかゆいけど背徳感漂う、奇妙な感覚に囚われてなんかちょっとドキドキした。転生した課長と転生したヤクザの再会シーンなんかも、かなり面白いことになってるので必見。
 やがて、転生した三人それぞれの関係者が絡み合い、転生しなければなし得なかった、魂の再会が実現する、というくだりは、さすが浅田次郎らしいコテコテなウェットさで、かなり予定調和だけど、こういうのは嫌いじゃないのでゆるゆると心に染みた。


 まあ、大前提となる「お役所」の設定自体がかなり大味でツッコミどころ満載なので、ファンタジーとしても圧倒的な傑作ではないのだが、物語も演出も、それなりにまとまっていて、まずは及第点、というところではなかろうか。黄泉がえり人情コメディの佳作。(★★★)