虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ボルト」

toshi202009-08-11

原題:Bolt
監督:クリス・ウィリアムズ/バイロン・ハワード
製作総指揮:ジョン・ラセター
脚本:ダン・フォゲルマン/クリス・ウィリアムズ


「落ちてるだけだ、カッコつけてな!」バズ・ライトイヤートイ・ストーリー」)


 ジョン・ラセタールーカスフィルムのインダストリアル・ライト&マジック社で、CG短編作品『アンドレとウォーリーB.の冒険』に関わってから25年、初長編作「トイ・ストーリー」を監督してから14年が経つ。


 ジョン・ラセターはCGアニメの発展とともに歩んできた名アニメ監督であり、名プロデューサーである。コンピューターの進化は、とどまることを知らず、表現力は25年前から考えればあり得ないほどの表現力と、それに見合う演出力を持つクリエーターに恵まれてきた。ピート・ドクター、アンドリュー・スタントン、リー・アンクルリッチ。ピクサーから巣立ち、またピクサーへとやってきた力強い個性を持つ演出家たちによって1年に1作品ペースで長編作品を叩きだし、作品ごとに作品のツールを開発し、表現力と演出の幅を広げているピクサーは、名実ともに世界でナンバー1のCGアニメスタジオであろう。


 しかし、その発展に大きく関わってきたジョン・ラセターであるが、作家としてのジョン・ラセターはその有り余る表現力をどこか持てあましているように思う。
 そもそも私が思う彼の最高傑作「トイ・ストーリー2」ですら、第1作での色味と食い違わないためにあえて表現力を落とすことで作られている作品である。彼にとってピクサーの最新鋭のツールは、逆に重荷になっているように思う。彼の最近作「カーズ」が1990年代後半には制作が発表され2001年から制作していたにも関わらず、完成は2006年とかなりの難産になったのも、今思えば最新技術との格闘に思わぬ苦戦を強いられたのではないか、と思う。
 常にCGの発展とともにあり、表現力の幅を広げることに邁進するピクサーは、「WALL・E/ウォーリー」に至ってはもはや「実写」と見まごうばかりの表現力を手に入れたわけだが、アニメ監督としてのジョン・ラセターはそもそも、そこまでの表現力を必要としていないのではないか。と思うのである。
 

 さて。そこで本作「ボルト」である。本作は非ピクサーのディズニー作品でありながら、ジョン・ラセターが製作総指揮として関わっている作品である。

 最新鋭のCG映画を作ることを命題としているピクサー作品とはまた別の形で、ディズニー・スタジオで製作総指揮に携わった本作が、皮肉にもここ最近のピクサー作品よりも「ジョン・ラセター」色が強い作品になっている。


 テレビドラマの物語上の演出によって、自分は最強の改造犬として、超能力の数々で少女・ベニーを守ってきたと信じ切っている「ただの犬」であるボルトが、世間に出ることによって、巻き起こす失敗の数々や、「自分が何者か」を旅を通して知る、という展開はまさに「バズ・ライトイヤー」だし、彼に振り回される猫「ミトンズ」の過去はトイ・ストーリー2の「カウガール・ジェシー」の過去*1を思い出させる。
 バズ・ライトイヤーがおもちゃであることを受け入れ、自分の限界を知ったときに、逆に「自分のするべきこと」に気付いてクライマックスで奇跡を起こすように、「ボルト」もまた「自分の限界」を知って、ベニーのために「自分が出来ること」を最大限に行っていく。


 この映画のもうひとつ面白いところは、「彼を騙してきた」はずの「物語世界」を否定しないことだ。そこがシチュエーション的に似ている「トゥルーマンショウ」との大きな違いで、彼が物語世界で行ってきたことから学び取ったことを、ボルトは「生身の自分」で実践していく。だからこそ、この映画のクライマックスには深い感動がある。


 ジョン・ラセターは本作についてのインタビューのなかで、「CG」のくっきりはっきりした色味とは違う、「セルアニメ」の背景のような暖かみを、いかにCGアニメの背景を再現するかに腐心したと語っている。
 自身の監督作を除いて、ここ最近のピクサーの宣伝活動にはあまり熱心でなかった「ように見える」ジョン・ラセターが、本作の宣伝活動には自らが矢面にたって、喜々としていそしんでいるのを見るにつけ、「ボルト」が、表現力の向上をしてきたピクサー作品では得られなかった、「アニメ監督・ジョン・ラセター」に見合った技術革新の方向性を示唆したからだと思う。
 「自分の限界」を知って、より深く飛び立つ。最新鋭の技術だけが、CG映画のすべてではない。「ボルト」はCGアニメーションの「幅」を深めるための新たなる座標軸として存在する作品になったと思うのである。大好き。(★★★★)

*1:「When somebody loved me」が脳内で流れる。