虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「僕の大事なコレクション」

toshi202006-05-11

原題:Everything Is Illuminated
監督・脚本:リーブ・シュライバー 原作:ジョナサン・サフラン・フォア
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/everythingisilluminated/


 その若いユダヤ人はアメリカからやってきた。


 彼は自らを「収集家」だと名乗った。一族に関する「物」をただ「集める」。その彼が、祖父についての「物」を持って、ウクライナ出身の祖父のルーツを探しにウクライナにやってきたのだという。彼が持った物はペンダントらしき石。彼によく似た青年と一人の若い女性が一緒に映った古い写真。そしてその写真の裏に書いてあった村の名「トラキムブラド」。
 アメリカかぶれのチャラチャラした若者に成長した都会ッコの孫を通訳に、「目の見えない」わしはその男の史跡めぐりの運転手を引き受けた。可愛くて凶暴な「盲導犬」を連れて。「難い人探しの旅」へ。



 映画を見た後で、俳優・リーブ・シュライバーのデビュー作。・・・と知って驚いた。この独特の間と、。大胆なキャラ設定を生かしつつ、音楽を巧みに駆使したコメディセンス。そして、笑いの裏に隠された強烈な哀しみ。その演出の完成度の高さには瞠目する。
 前半は、コメディである。メガネに七三、なんでも袋に保存してしまう菜食主義者アメリカ青年・ジョナサン(イライジャ・ウッドin眼鏡=最強)、アメリカかぶれで背が高く蔑称だろうがなんだろうが、イケてると思う英語はなんでも使う通訳の青年・アレックス(ユージン・ハッツ)、目が見えないと言い張る彼の祖父(ポリス・レスキン、名演)とその「凶暴な盲導」犬・サミー・デイビスJr.Jr.(←名前)。個性豊かすぎる3人+1匹による、噛み合わない珍道中と、そこから生まれる奇妙な友情を、卓越した演出で描いている。
 だが、やがて、彼らは、彼ら自身を繋ぐ、真実にたどりつく。それは、ウクライナの平和な風景に隠された、壮絶な哀しみの記憶だった。


 ウクライナに横たわる悲劇。思いを託した「物」。そして、そこから生まれた「縁」が、止まったまま消え去ろうとしていた真実を、ふたたび動かす。無関係に見えた事象が、ひとつの「真実」によってつながっていく。そう、世界はけっしてあなたと無関係ではない、とこの映画は語る。*1
 過去の哀しみの記憶をたどるこの物語が、だが、けっして憎しみの物語に変わることなく、新たな友情の萌芽となっていく奇跡。エゴのぶつかり合いではなく、相互理解と隔絶した世界のつながりを示す。この懐の深い物語を、ユーモラスな演出でくるんで見事に描ききったリーブ・シュライバー「監督」の手腕は、第一作ですでに「名匠」の域と言える。傑作。(★★★★★)

*1:実を言うとここに日韓の間の話に持って行きたいが、ややこしくしたくないので、割愛。