虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ニュー・ワールド」

toshi202006-04-30

原題:The New World
監督:テレンス・マリック 撮影:エマニュエル・ルベツキ


 テレンス・マリック監督、7年ぶりの新作は、17世紀の冒険家ジョン・スミス(コリン・ファレル)とポカホンタスクオリアンカ・キルヒャー、絶品)の出会いと、数奇な運命を描いた物語。


 この映画でテレンス・マリックが描こうとしたものは、現在のアメリカの萌芽となった新大陸に渡ったヨーロッパ諸国の傲慢、というのも無論あろうが、それはあくまで「側面」でしかない。この映画が描こうとしたものは、ヒロイン・ポカホンタスの魂の彷徨に「触れる」ことである。
 徹底したリアリズム、自然光の中できらめく風景を捉えた完璧なショットの数々、そして何より世界観の完成度の高さは、瞠目せざるを得ない。完璧に作られた外宇宙で、スミスとポカホンタスは出会い、言葉も通じぬ間をふれ合いを通じて語り合い、愛を深めていく。


 ふれ合い、という行為にこの映画はもの凄く自覚的だ。完璧に作られた世界、そして開拓者と原住民族との間のコミュニケーションは「触れる」という行為によって、観客に知覚させる。美しい世界を見るだけなら環境ビデオでも見てればよい。この映画が映画たりえているのは、世界、そして人との感情を「体感」させるからだ。
 まー、脚本自体はさほど完成度は高くない。会話もわりと説明的であるし、キャラクターのモノローグはまるで詩だ。だが、その物語を映像によって補完していくという荒技、いや、メインストーリーの語りは完成度の高い映像によって為されるという語りの次元の「分離」こそが、彼らの「現実」(外宇宙)に翻弄される「魂」(内宇宙)を見事に浮かび上がらせる。


 異文化交流のふれ合いの中から立ち上がった、魂から焦がれた二人の恋は、やがて現実によって破綻を迎え、彼女のこころの彷徨と救済の物語へと姿を変える。物語としては昂揚がないのであるが。その魂の救済は透き通った水のようにすっと心に染みた。(★★★)