虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「トム・ヤム・クン!」

toshi202006-04-23

監督・脚本:プラッチャヤー・ピンゲーオ
公式サイト:http://www.tyg-movie.jp/


 200X年、タイは象の親子を盗まれた。あらゆる奪還する勇者は絶滅したかに見えた。しかし、タイ人の勇気は死に絶えてはいなかった。


 というわけで、象を守る兵士の末裔であるトニー・ジャー*1が、中華系マフィアが跋扈する愛を忘れた無法都市シドニーへとの乗り込み、象への愛を胸に一子相伝の奥義を解放する、という新世紀救象主伝説。
 前作「マッハ!」はムエタイの極意をバリバリ使いながらも、抜き身の刀を振り回すと大事なものを失う、という物語で、本作でも一応踏襲はされてる。だが、今回はどちらかというと、象がタイ人にとって神聖な生き物ということもあり、トニーのイノセントな怒りの方がその教えをかるーく上回っていて、もう容赦なし。抜き身の足技で素人のチンピラだろうがおっさんだろうが、♪邪魔する奴は膝蹴りひとつでダウンさ♪と言わんばかりに、破壊衝動赴くままに蹴りまくり関節壊しまくり。凶悪なジャイアン。人間版キングコングである。


 X-TREMEで「D-LIVE」な連中、カポエラ、剣術、プロレスラー、チンピラ100人、その他もろもろ。戦うイベント映画ような本作ではあるが、ブラッチャヤー・ピンゲーオは結構真面目に作劇する人で、前作でもベッドターイ・ウォンカムラオを通じて田舎から出てくる若者たちの現実を物語に組み込んでいたけれども、今回も律儀に海外に出てくるタイ人は大変なのよ的物語を組み込んでいる。だが、それが今回に限っていえば、象の救出劇との絡みの練りが足りずに中途半端に浮いてしまい、物語をうまく転がせていない。物語の整理が出来てないから、前作では持てていた戦う必然性よりもイベント性が勝ってしまっているのは本作で大きく後退した点。
 それにしてもやっぱり、異種格闘技三番勝負や、螺旋階段での長回し駆け上がりファイトなどはやっぱり問答無用で興奮する。これはもはや彼にしかできない的凄みが炸裂していて、この辺はさすがに息もつかせぬ迫力だ。


 だが、アクションが増量した割に前作ほどの震えがないのは、無軌道な暴力を肯定的に描きすぎている点にあると思う。正直、今回のアクションはやられてる側が痛そうなアクションで、どうも敵(と受けているスタントマン)の方に同情してしまうこともしばしば。プロレスラーたちをしとめた技なんか凶悪すぎる。
 というわけで、この映画は、「象を虐める奴のところには怒ったトニー・ジャーが来るぞ」という映画なのです。トニー・ジャーなまはげか。(★★★★)


追記:日本版テーマソングでスカパラの「太陽にお願い」が使われてるのだけど、驚くほど違和感なしでびっくり。タイアップバリバリなのに、センス次第ではどうにでもなるもんだなあ、と思った。

*1:映画秘宝」言うところのチャー。このこだわりは俺、よくわからん。「スクリーン」のケビン・コストナーみたい。