虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

1月2月の感想書き損ねた映画たち

 Twitterに書いた感想を交えながら、感想を書き損ねた映画たちを振り返っていきます。

「ホワイト・バレット」三人行(ジョニー・トー

 ジョニー・トーの新作「ホワイト・バレット」見たけど、「変かっこいい」と言うジャンルの極致のような映画だった。あとやっぱりパンフレットはなかった。パンフ作る余力すらないと言うのは哀しい。面白い映画だけど、クライマックスの銃撃シーンの歌の謎さだけは首をひねりつつ、かっこよさに痺れる。つーか、何この歌。

 ・・・と思って、銃撃戦でも流れる主題歌について検索してたら、あれ、香港の懐メロカバーなのね。わかるかー!

 わかりやすく言うと、テレビアニメ「輪るピングドラム」の「生存戦略」の場面でARBのカバーが流れる感じに近い演出なのね。本作の銃撃シーンはジョニー・トー監督の「変」な感性が爆発したシーンだと思います。(★★★★)

輪るピングドラム キャラクターソングアルバム

輪るピングドラム キャラクターソングアルバム

「ドラゴン×マッハ!」殺破狼2(ソイ・チェン)

 「SPL/狼よ静かに死ね」のシリーズ続編であり、タイのアクションスター・トニー・ジャーと、実力派・ウー・ジンのW主演で映画化した香港映画。

 楽しかった。3人のマスターの肉体の躍動を堪能。パッケージングが香港製なのでタイアクション映画の「イカレてる!」感はないんだけど、明らかに目の前で起こってるトンデモナイアクションを過不足なく見せ切る編集が見事で、常人にもきちんと何が起こってるか目で追える。
 獄長(マックス・チャン)がトニー・ジャーを軽くあしらうところは、ドラマとは全く違う感動がある。あそこ、変な声出た。香港アクションの層の厚さ、底力を見た思い。


 その後本作の「絶叫上映」と言うものに初めて参加して、その魅力にも開眼するきっかけになりました。大好き。(★★★★)

「疾風スプリンター」破風(ダンテ・ラム

疾風スプリンター [DVD]

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 ダンテ・ラム監督による、恋と友情と野望を描く自転車レース活劇映画。

 見てすぐに分かった。本来これ、フィクションで扱う題材じゃねーよ。自転車ロードレースの生感が凄すぎる。並の監督なら絶対手を出さない。そのくらいレースシーンの出来栄えがハンパない。本気すぎる。ダンテ・ラム監督怖い。そして、ベタベタなドラマとの落差がエライことに。
 エンディングにメイキングダイジェストが出るんだけど、それ見てるだけでもどんだけ過酷な現場だったか、想像するだけでちびる。怪我人続出だし、可愛いヒロインも思いっきりしごかれてるし、主演クラスも生傷絶えない。よく死人が出なかったもんだと心の底から思う。
 それでいて主人公とヒロインのベタベタ過ぎて「少女漫画かよ!」的な恋愛模様とか、レースシーンが過酷な撮影すぎてスタッフが逃げ場が欲しかったとしか思えないギャップスゴイ。当て馬役のフラレ方も少女漫画の王道だし!振られたシーンで笑いそうになったの初めでだ。

 香港映画のパワフルさの一端がこの映画にあると思います。大好き。(★★★★)

ザ・コンサルタント」The Accountant(ギャビン・オコナー)

 この映画、間違いない。緻密に積み上げられた設定で、一人の「正義の執行者」が誕生するまでを解き明かす作劇は、見事すぎて感嘆のため息が出る。この地に足ついたリアリティー、主人公は障害者で、異質なるものを排斥しようとする社会の病巣も絡める視点は素晴らしい。
 とても愉快な映画なんだけど、予告編だと全然そう見えないのがかわいそうな映画。みんな見てね!秘密基地とか大好きな心が小学生な人や、相手の目を見て話せない人とか、特定の話題でしか盛り上がれないオタクは必見ダヨ!

 本作はいい意味で最初の印象を裏切られた映画で、ベン・アフレックが手にした新たなるアクション・ヒーローシリーズになって欲しい作品でした。社会的弱者と言われる障害者たちが、隠されたスペシャルな才能を獲得していく物語としても面白い。超・大好き。(★★★★☆)
 

ルパン三世/カリオストロの城」MX4D版(宮崎駿

 言わずと知れた宮崎駿の代表作の一つが、MX4D版でリバイバル上映。

 とりあえず大スクリーンで見られる貴重な機会と言うことで、普通に見ててもエグいくらい楽しいんだけど、カーチェイスからアクションから漫画映画的小ネタギャグかまで、MX4Dの物理演出が入るのも楽しい。塔の屋根からのずり落ちから次元のプロレス技まで反応。
 久々に大スクリーンで見て、「ああ、やっぱり映画館で見なきゃいけない映画だ。」と思いましたですよ。地下水道に落とされて発見する日本人の遺体の上に書かれた文字ってビデオだと潰れてなんのこっちゃだけど、大スクリーンだとくっきりはっきり。時計台で潰れる伯爵も見えるよ!
 クラリス姫抱きしめない例のやーつ、あれ中年になってからの方がより味わい深いな!もういじり倒された古典なのに、大スクリーンで見続けてあのクライマックス。「愛しいからこそ抱きしめない、抱きしめてはいけない、」っておっさんになってからの方が響くんだ!

「牝猫たち」(白石和彌

牝猫たち [Blu-ray]

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 日活ロマンポルノが平成に復活したシリーズの1作にして「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌監督の新作。

 池袋をうろつく学生時代を過ごしたあたくしにドンピシャな白石和彌監督のロマンポルノリブート作。シリアスと笑い、優しさとバイオレンス、性と死を縦横無尽に横断する白石節。なんで音尾琢磨さんがキャスティングされてんのかと思ったらオチが。攫うなあ音尾さん。場内大爆笑。さすが。
 引きこもりやホームレスデリヘル嬢、シングルマザーに虐待される子供、妻に先立たれた老人、人妻嬢の孤独を掘り下げるなど、社会派な匂いを漂わせつつ、最後に「なーんちゃってーー!」ってひっくり返すちゃぶ台が音尾さんなのね。これに関しては「見事」と言うほか無いわ。あれは笑う。
 人間群像劇としても大変優秀で、その点、「エロシーンが入る以外何やってもいい」と言うロマンポルノの王道的な作品なのかも。ただ、白石監督はかっちりとした娯楽映画にしてるけど、大きくははみ出さない生真面目さも感じる。あと音尾さんはかつての竹中直人枠を狙える位置に来たなあ。

 このロマンポルノシリーズは、まだまだ続けて欲しいですね。(★★★★)

「沈黙 サイレンス」Silence(マーティン・スコセッシ

 なんちゅー精神的SM映画。舞台が無知な日本人が拷問を用いて棄教を強いるなんて時代からちょっと経た長崎で、S側のイッセー尾形演じる奉行と浅野忠信演じる通詞も、M側アンドリュー・ガーフィールド演じる神父が長崎に来たことにうんざりしているのが面白い。
 奉行や通詞は一度棄教させた経験があって、どうすれば神父が棄教するか、その心理手に取るように把握している。だからSMの力の強弱の加減まで完成されていて、アンドリュー・ガーフィールドごとき若い神父をどのように落とせるか、段取りまで完璧という恐ろしさ。勝てない。
 弱さや業の肯定という意味では落語に近く、窪塚洋介演じるチキン系信者キチジローの存在が布石となって効いてくる。意識高い系神父は最初キチジローを愛せない。だが、自らの無力、神の沈黙を通して彼の中に「神の声」を知り、キチジローに対して愛を持てるようになっていく。
 表向き信仰を捨てたとして、それが果たして信仰を捨てたことになるのか。神父としての栄光を捨てることでアンドリュー・ガーフィールドはよりキリスト教の主の「真理」へと近づいていく、と言う皮肉な展開は、なるほどキリスト教圏で物議を醸すはずだわ。深すぎる問いだ。
 見て思ってたのは、世界のありようの発見ではなく、再確認だった。なので見てる時は「ひゃー!」とか「うわー!」とか声に出してたんだけど、割と見終わった後は淡々とした感じで劇場を出てきた。この感じが不思議だった。そこがこの映画の奇妙さであると感じる。

 (★★★★)

LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門」(小池健

 テレビシリーズ『LUPIN the Third -峰不二子という女-』、2014年の映画『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』の流れをくむスピンオフシリーズ「Lupin the Thirdシリーズ」の第3弾。

 五ェ門が元軍人の男に完膚なきまでの敗北を喫し、そこから再び立ち上がり更なる強さの境地へと至る事でリベンジを果たす復活劇。五ェ門という最強の男を挫く敵役・ホークのターミネーターもかくやの最強ぶりの描写が見事。暴力描写も容赦ない。
 小池ルパンの前作「次元大介の墓標」から地続きとなる話のようだけど、そっちを見てなくてもあまり問題ない。ルパン一味も銭形も登場するけど、五ェ門とホークのレベルがハイレベルすぎて傍観者にならざるを得ないのだが、その立ち回り方が五ェ門の琴線に触れるってのは面白い。

 (★★★★)

「未来を花束にして」Suffragette(サラ・ガヴロン)

未来を花束にして [DVD]

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 女性参政権を巡る女性たちの闘いを描いた映画。いやー「花束を」なんて邦題ついてるけど、そんなヤワなもんじゃねーな。本当に捨て身。思った以上に活動が過激なんだけど、そうならざるを得ないほど出てくる男たちがクソで、差別社会の地獄を生きるヒロインのサバイバルなのだ。
 ヒロインのモードの夫にしても敵対する警部にしても当時としては善良なる「普通」の男たちだ。彼らは差別者ではない。だが次第に参政権運動に関わるようになるヒロインを恐れ、または無法を行う女のように扱う。今の当たり前を求める事が昔はそうではなかった。ツライ話だ。
 虐げられた人々が声を上げると社会は驚くほど冷淡になる。それは今の社会もまさにそう。「普通」の人々が彼女たちの敵に回る。当たり前を求める果てなき闘争。その末に未来は、世界は少しずつ変わっていく。そこに人間の希望がある。その事を描いた映画である。それ大事。
 なんか女性映画として売られてるけど、男が見て損はない映画だ。強く生きる闘う女性を見るの大好きな人は見るといいと思う。お勉強だけでは理解できない「差別社会」の砂の味を体感できるし、政治運動の大事さを実感できる。つか「この世界の片隅に」だってこんな世界なんだぜ?
 本作を見てるとこういう歴史を経て我々の「権利」は勝ち取られてきたと言う事がわかるし、社会的強者と言うのは、油断すると弱者から尊厳から何から取れるものはすべて剥ぎ取っていく事を知る事が出来る。映画に教えられる事は本当に多いぜ。

 (★★★★)

「サバイバル・ファミリー」(矢口史靖

 いやー素晴らしい。電気が全て消えた世界という設定を徹底的にシミュレートしつつ、一家族が生き残りを賭けて日本を迷走する中で、家族の絆と生きる力を獲得し始めるまでを丁寧に描いてる。ワンアイデアもここまで突き詰めるとゾンビものより怖いホラーにも喜劇にもなる。
 電気のない世界に放り出された世界では人間は時にゾンビより怖いけれど、だからこそ生まれる感情の爆発や肉体の躍動、人間の本来あるべき情が溢れ出る。それを丁寧に段階を追ってきちんと描くことで、限りなく説得力を持たせる矢口史靖監督の手腕、ここに極まる。見事。
 しかも今回は非常に普遍的な物語なので、うまくすれば韓国や中国などのアジア諸国はおろか、欧米でもでリメイクが可能。昨今の日本映画らしからぬ、ドメスティックに陥らない映画力溢れる作品なので、本当に素晴らしい。これは矢口監督、やったな。大ホームランだと思う。
 とりあえず3.11後の映画としては決定版と言えるかもしれない。未曾有の状況で人間の力が呼びさまれると言うのは、阪本順治監督の大傑作「顔」に近い。と言っても、小日向さんは普通のサラリーマンでいきなり器用になるわけもなく、劇的に変わるのはむしろ子供達の方。

 リアルにシミュレートしつつ娯楽映画の強靭さを失わない、矢口史靖監督の映画力は韓国映画にだって負けはしないと思う。傑作。大好き。(★★★★★)

「破門 ふたりのヤクビョーガミ」(小林聖太郎

破門 ふたりのヤクビョーガミ [DVD]

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 黒川博行氏の「疫病神」シリーズの第5作「破門」の映画化。

 面白かった。この映画、全然話題になっとらんけど何でや。キャストも適切だし演出もいい。主演の佐々木蔵之介横山裕に華がないくらいで映画は面白かった。こういうちゃんとした日本映画に客入らないのおかしい。だから日本映画は斜陽になる。橋爪功まだまだ巧い。
 横山裕に華がないと書いたけどけなしてるんじゃない。この映画に関してはそこがいい。この華のなさが異様にリアル。佐々木蔵之介と比べても月とスッポンのスッポンの方に見えるが、だからこそクライマックスにすごく共感できる。その意味でもこの映画侮れない。
 この映画、脇も異様に豪華で國村隼キムラ緑子北川景子、木下ほうかに宇崎竜童と錚々たる面々が脇を固めてタイプキャストな演技を披露してる。ポイントポイント抑えた配役で安心して話が追える。正直「ナイスガイズ!」と比べても遜色ないと思うんだけどなあ。
 加えて橋爪功だよ。出資金を集めて高飛びした食えねえ映画プロデュサー役なんだけどやっぱり巧い。ヤクザを向こうに回して殴られるわ箸刺されるわす巻にされるわ結構ひどい目に遭うんだけど、それでもめげない諦めない、そして憎めない。それを飄々とこなす。流石。

(★★★★)

ラ・ラ・ランド」La La Land(デミアン・チャゼル)

 くっそ!くっそ!クライマックスで大いに泣いてしまった。あかんわあんなん。思い出しても泣く。ダメダメ、こんなの。泣くに決まってんだから。ツボに完全にハマってしまった。
 正直言うと序盤はそこまで乗れてなかったんですよね。オープニングなんかは演出がテクニカルすぎて若干引きながら見てた。でも、あの夕焼けのダンス辺りから次第に引き込まれて、ふたりの恋と夢の道程を見つめつつあのクライマックス。もうね。ダメな。あーもう。してやられた。

 毀誉褒貶いろいろ言われる映画ですけど、僕は肯定派ですね。あのクライマックスは、なぜこの映画が「ミュージカル」だったのかを明確に示していて、とにかく心を撃ち抜かれてしまった。大好き。なのです。(★★★★)

ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」Free State of Jones(ゲイリー・ロス

ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男 [DVD]

ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男 [DVD]

 南北戦争時代、アメリカに奴隷解放宣言よりも早く、白人と黒人が平等に暮らせる「ジョーンズ自由州」を築いた男・ニュートン・ナイトの、黒人差別との果てなき戦いを描いた歴史大作。

 この非寛容が進む時代にあって、黒人奴隷と脱走兵を率い、アメリカの自由と平等を信じて果てなき戦いを続けた反骨の白人男性・ニュートン・ナイトの生涯を描いたこの映画は、まさしく今見られるべき映画だろう。このマコノヒーに痺れないならその人の魂は死んでる。
 ゲイリー・ロスは85年後、ニュートン・ナイトの孫である男性が直面した、ある裁判を物語に絡ませる。そして、その裁判は、ニュートン・ナイトの戦いは終わっていない事を浮かび上がらせる。その作劇は、今、アメリカで起こっていることと奇しくもつながっていく。凄い。


 この映画は非常に素晴らしい傑作だと思っていますし、いま、アメリカで進行している事態に通じる映画であると感じています。そんな私が、2回目を見に来た時に製作者の方のティーチインにたまたま遭遇したのでした。

 2回目。プロデューサーのブルース・ナックバーさんのティーチインあり。やっぱり傑作。構想から完成まで11年。最初はゲイリー・ロス監督と別に企画を進めていたけど、監督から合同でやろうと持ちかけられてこの映画に繋がったとの事。ちなみにナックバーさん、日本在住。
 ニュートン・ナイトはアメリカでも存在はあまり知られておらず、マシュー・マコノヒーも関わるようになるまで知らなかったそう。マコノヘは演技に集中するタイプでなかなか役が抜けない。周りの役者と無駄話もせず、監督と演技を詰める話ばかりしていたとの事。


 実際の写真とマコノヘ比較。目力の強さが激似。

 ニュートン・ナイトになりきったマシュー・マコノヒーの演技も大変素晴らしく、差別の根深さと世代を超えた戦いを描いていく構成が見事な傑作と思います。大好き。(★★★★★)