虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」

toshi202015-08-29

原題:Mission: Impossible Rogue Nation
監督 クリストファー・マッカリー


 うーむ。素晴らしい。
 言わずとしれた、毎度おなじみトム・クルーズの虎の子アクション第5弾になります。



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 そして、やっぱりネックだったのは「ハント夫人」の扱いです。イーサン・ハントがスパイ稼業を続けるのならば、奥さんは明らかに任務の邪魔以外何者でもありません。ここで、プロットはさりげなく「奥さん」を巡るミステリーも、メイン・プロットに関わってきます。
 映画冒頭で、イーサンは観客が想像もしない場所にいます。何故、かれがそこにいるのかという「謎」が冒頭で提示され、その「謎」を抱えたまま、物語は一気呵成に進んでいきます。そして、その謎が晴れた時、伊藤さんが不満を感じた「妻を娶ったヒーロー」イーサン・ハントが出した、一つの答えにたどり着きます。

 前作での持ち上がったイーサン・ハントの「欠点」を、本作ではどうしたか。そこに注目してみると、この映画はより味わい深いものになるのではないでしょうか。


ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」感想
ミッション:インクレディブル - 虚馬ダイアリー


 トム・クルーズがアクション限界に挑むシリーズとして、相変わらず攻めに攻めた映画であるが、物語に関しても安定感が増している。
 前作「ゴースト・プロトコル」の感想で、伊藤計劃さんに「M:I-III 」で大いに突っ込まれた点を一気に克服した点に関して私はいたく感心していたのだが、いよいよスパイという職業上ネックだった愛する妻と袂を分かち、急造チームから頼れる?チームへと新生した「ハント組」のてんやわんやを描き出すシリーズとして、いよいよ「チーム・アクション」シリーズとして安定の域に入ってきた。
 と言っても、前作の事件の余波でIMFは解体の危機に直面しているし、前作のラストでちらっとその存在をにおわされた「シンジケート」は、実は思った以上に巨大な力を持つ組織であることがわかってくる。



 冒頭で予告編やCMでもおなじみの飛行機ちゅうぶらりんシーンから、飛行機になんとか乗り込み、大量殺戮兵器をごそっと奪還したイーサン・ハントチーム。だが、その結果イーサン・ハントはロンドンのアジトで、追っていた「シンジケート」の罠に落ちて、拉致されてしまう。拘束された彼が目覚めると、そこにはナゾの美女が立っている。
 彼女は何者なのか考える暇もなく、仲間とおぼしき男達が入ってくる。その中のひとりの男にイーサンは見覚えがあった。彼は生死不明で行方知れずになった、拷問のプロフェッショナルである。イーサン・ハントはこのまま身体を痛めつけられたままなぶり殺されるのかと思いきや、その美女は突然イーサンに鍵を渡し、男達と戦い始めた。なんとか拘束を解き、脱出口から逃がされるイーサン。彼女の目的は一体何か。
 なんとかチームの仲間であるブラント(ジェレミー・レナー)に連絡を取るが、前回の事件を重く見たCIA長官アラン・ハンリー(アレック・ボールドウィン)によりIMFは解体、CIAに取り込まれることになった。イーサンは消息を絶ち、CIAは生死不明のままイーサンを国際手配する。

 半年後。CIAはIMFメンバーを監視下に置きながら、ハントの追跡を続けていた。一方ハントも、「シンジケート」の存在をつかみかけていた。それは1人の強力なリーダーの元に、各国の元スパイを手足のように使い、世界的な体制の破壊をもくろむ、ならず者国家(ローグ・ネイション)的な組織だと言うことである。
 そして、いよいよイーサン・ハントは「シンジゲート」の目論見を阻止すべく、巧みにウィーンにベンジー(サイモン・ペグ)を誘い出し、彼を味方につけて再始動する。シンジケートの狙いはオーストリア首相の暗殺。そしてそれには、拉致された時ハントを助けたナゾの美女・イルサ(レベッカ・ファーガソン)も関わっていた。こうしてイーサンの、「死して屍拾う者なし」の逆襲が始まる。


 今回の映画で、物語の重要な鍵を握るのはこのイルサであるが、とにかく彼女とイーサンの絡み方が面白い。イルサ演じるレベッカ・ファーガソンはすごく美人なんだけど、セクシーさよりもやや工作員としての硬質さが優る。だから、イーサンと向き合ってもあまり色っぽい感じには不思議とならない。
 この辺はイーサン・ハントとジェームズ・ボンドとの明確な差別化とも言えるのだが、イーサンとイルサの間に流れる奇妙な「信頼感」は、恋愛感情とはまるで違う、職業人としての精神的な「同志」感に近いもののように思う。普通なら、前作のラストで最愛の妻と別れを選択したイーサンに新たなロマンス?・・・という流れになりがちだけど、そうなるようにはとても見えないように描いてみせる配慮はさすがと言える。

 しかし、その信頼感とは別にイルサは様々な思惑が入り乱れる組織の間のバランスを取りながら、自らが「イーサン・ハント」の「職業的価値」と、自らの工作員として鍛え上げた能力を最大限「利用」しながら、細い糸を綱渡りしている事が見えてくる。


 実は、イーサン・ハントとイルサ・ファウストは互いに、「組織」に頼れない「組織人」としての苦境という立場をわかっている。だからこそ、2人は同じ「職業人」として響き合うことになる。そして、シリーズの中で「ヒーロー」になりかけたイーサン・ハントは、最後には「シンジケート壊滅」というミッションの為だけでなく、「組織」から外れてもなお信頼できる「盟友(とも)」たちの為に戦うのである。その中にはおそらく、イルサもいる。
 そしてイルサも、同じ苦境にある「盟友」としてイーサンを信頼している。そして彼女は常に別れ際に言う。

 「私を探し出せるでしょう?」と。


 イルサが「シンジケート」にいる目的とは。「シンジケート」はどこで生まれたのか。そして、それを動かしているリーダーとは。
 ミステリーとしての強度を落とすこと無く、トムの壮烈なノースタントアクションとナゾがナゾを呼ぶ物語が有機的に響き合うシリーズ屈指の傑作に仕上がっていると思います。大好き。(★★★★★)