虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「県庁の星」

toshi202006-03-05

監督:西谷弘
公式サイト:http://kaikaku-movie.jp/


 彼はその店で「県庁さん」と呼ばれた。


 彼は某県庁のキャリア公務員だった。仕事は早く、そつはなく、なにより行動的。その分上昇志向も人一倍だった。彼はその県最大規模のプロジェクトに参加するために、仕事に情熱を傾けた。
 地方政治は、その地域にはそれなりに強い権力を持つ。だが、マスコミや市民団体の圧力を黙殺できるほどの力はない。だから、市民団体に騒がれて、世間に悪評が広がるようでは困る。彼が情熱を傾けたプロジェクトは、市民団体から箱物行政の象徴と目をつけられていて、一部のマスコミも批判的な目を向け始めた。その異論を逸らすために、県は7人のエリート官僚を、「民間の知恵を地方行政に反映させる」という名目の元、「民間人事交流」を始める。彼はその一人に選ばれた。


 こうして、スーパーマーケット「満天堂」に「県庁さん」こと野村聡はやってきた。


 
 というわけで、織田裕二演じる書類仕事の達人で上昇志向の強い県庁キャリアが、民間との意識の差に悪戦苦闘しつつ、逆境から立ち上がっていく姿を描く、現代日本版正調キャプラ節映画。
 予告編見たときは、織田裕二の「踊る」と変わらぬ出し殻演技を見せられるのと思って少々うんざりしていたのだが、本編を見てみれば、織田裕二が得意とする「カルチャーギャップ」へのリアクション演技が冴え渡り、なかなか快調。「一流営業マン」から「所轄刑事」になった青島よろしく、「書類仕事の達人」から「スーパー店員」に出向した男の、理想と現実の間で四苦八苦する悲哀がなかなかにリアル。口ばっかで使えない、ってところもドラマシリーズ初期の青島とかぶるのだが、それを愛すべき男へと持って行く説得力はさすがと言える。
 「世界の中心で〜」「メゾン・ド・ヒミコ」と連なる柴咲コウの気の強い薄幸キャラの説得力もいよいよ堂に入ってきており、そんな柴咲の演技ともども、驚くほど心安らかに笑えた。

 キャリアとしての出世の道を閉ざされてたときに手を差しのべられて以降の、「県庁さん」によるスーパー改革劇もなかなか身の丈レベルで。結果だけで見れば、たかだかスーパーの1店舗の売り上げが3割り増ししただけのことなのだが、その改革により、「県庁さん」、そして店員たちの意識も変わっていく、という展開は、ベタながらもきっちりとしたカタルシスを残していて、お見事。なかなかの秀作じゃん!と思っていた・・・のだが。


 スーパーを改革して終わって以降の、終盤の展開ははっきり言って蛇足。いや、大見得を切る場所が地方県議会ということもあって、展開そのものには予告編で失笑したほどには違和感がないんだけれど、スーパー改革劇の余韻に比べると、あまりにも弱い。
 むしろ、この研修で「学んだもの」を胸に、改革し終えたスーパーを去る「県庁さん」でエンドロールが降りれば、作品的にも上映時間的にも完璧だったのに。県議会のシーンはエンドロールでダイジェストで流せばいいんだしさ。終盤の展開をカットした「ディレクターズカット版」を超希望!


 というわけで、余計なことをしなければ・・・とは思いつつも、喜劇としての出来映えは決して悪くない佳作でした。楽しかった。(★★★)