虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「舞妓Haaaan!!!」

toshi202007-06-16

監督: 水田伸生
脚本: 宮藤官九郎


 ★★★★★。


 いや。断っておくと別に傑作じゃないっす。映画史に残るべき映画、とか全然思わない。舞妓世界のリアルな裏側を知りたいとか、映画ならではの重厚な物語を求める人には全然お勧めしないし。もうね、全然薄っぺらい映画だし。むしろそういう方々には「見るな!」というね。「頼むから見るな!」と。
 だけど、この映画はあるベクトルにのみ圧倒的に正しい。この映画は日本映画界が誇る「躁病俳優」阿部サダヲの主演作としては、もう、文句のつけようがないと思う。こういう映画以外、何を作れっちゅーねん、と思う。


 つまり。もしもあなたが、阿部サダヲ×舞妓フェチ×クドカン、という三題でコメディ映画を作ったらどうなるか、きちんと想像できるならば、そうそれこそがこの映画。悪球打ちのあなたの期待のどストライク(つまり悪球)にズバッと投げ込む映画。阿部サダヲというモンスターマシンを駆りながら、ベタ踏み走行で迷走する、悪夢のようなハイテンション無責任コメディである。大好き。超大好き。


 阿部サダヲ演じる主人公はぼっちゃん刈のラーメン会社社員で、高校の修学旅行での舞妓と衝撃的な出会い以来、舞妓以外に性欲を感じないという、まあ一種のフェチストである。少ない同好の士とともに東京から「上洛」し、舞妓さんに萌え狂いながら撮影し、家に帰ってから自らが運営するホームページにアップして萌え狂う、というドマニアさんだ。しかし、それは所詮路上撮影したものであるため、お座敷荒らしと称する男にカキコでバカにされ、屈辱に歯がみする日々だ。しかし、入社12年目にしてようやくチャンスを手に入れる(彼にとっての)。京都支社への転勤が決まったのだ。
 つまるところ、京都にある「かやく」をつくる工場への左遷なのだが、まあ、そんなこと知ったこっちゃない。東京での彼女(柴咲コウ)もあっさり振って、喜び勇んで京都へ乗り込み、いざお座敷遊び!…と思いきや、そこには敷居の高い「一見さんお断り」システム*1の壁が彼に立ちふさがったのだった・・・!


 いやもう、阿部サダヲの自らのフェチズムに執着する様のキモさ一歩手前、いや十分キモイ演技が最高にいい、と俺は思うのだがみなさん、どう?<聞くな。つまりこの辺が人を選ぶ映画なのは間違いないのだが、つまるところ、そんな彼を追っかけて舞妓になっちゃう主人公の元カノの気持ちとかが、それなりにわかっちゃう人にとってはこの映画は決して期待を裏切らないどころか、300%くらいの力であなたを引っ張っていってくれる。だが、当然それ以外の人間は振り落としていくわけだが。
 お座敷に上がりたいためだけに、新製品を作り大ヒットさせてしまう、そんな主人公にライバルが現れる。それが堤真一演じるプロ野球選手。彼のキャラクターの立ち位置がすばらしく、泰然自若としていながら主人公に負けず劣らず舞妓バカ、いうバランスが絶妙で、その余裕っぷりが主人公の暴走にニトロを注入していく、という展開。そこに、東京で振った元カノが絡んでくる。
 敵意むき出しで一心不乱に剣を振り回してくる主人公に、余裕で受け流す剣士のごとく、阿部サダヲのアホ演技に、相応のアホさ加減で付き合う堤真一が異様にかっこいい・・・と思うかは人を選ぶんだけど、いいんだよ!もう!別に!俺は好きなの!<あーあ・・・・


 こんなハイテンションな無責任男映画に、植木等が人生最後の映画出演をすることになるおまけまでついて、この映画はもう、映画史に残るでしょう!俺の!個人的な!


 もう、当初の目的を見失って爆走しながら、最後は人情話を絡めつつ、フェチを全うし尽くす主人公を描き切るクドカンも素晴らしいのだが、こんなテンションの映画にきちんと対応していった水田伸生監督*2にも敬意を表しつつ、この映画によってフェチを貫く男のかっこよさが認知されることを願いながら筆を置こう。


 いやあ、阿部サダヲって、素晴らしいですねえ。(★★★★★)

*1:いや、今は割とオープンになってるらしいけど、それを言ったらこの映画自体が成立しないので言わないように。

*2:書いたあと気付いたけど、ドラマ「ぼくの魔法使い」でタッグを組んでたんだっけ。