虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「椿三十郎」

toshi202007-12-05

監督:森田芳光
脚本:菊島隆三/小国英雄/黒澤明


 クロサワリメイクラッシュの先陣を切って公開される、興行的に今後の試金石となるであろう脚本をいじらずに演出された「椿三十郎」再演。
 本作で興行成績60億円以上を目指す。と角川先生は言っている。



 この映画のコンセプトが固まったのは2年前。と思われる。
 角川春樹プロデューサーの前々作にして大作「男たちの大和/YAMATO」は2005年正月第二弾で公開されてる同時期に公開されてたのが、「THE有頂天ホテル」だったらしいのですな。で、どっちがヒットしたのはどちらか、というと。うん。「大和」51億円に対し、「有頂天ホテル」60億円という結果になり、角川先生は大変にショックを受けたらしいんですな。
 「こんなに苦労したのに・・・あんなのに負けるのか・・・・あんなのに・・・・。」と。
 まあ、三谷幸喜にしてみたら、お互い様というか大きなお世話だと思うんですが(三谷幸喜作品としては破格の大作だし)。角川先生はリベンジを賭けて、この後、モンゴルロケを敢行し、制作費30億円をかけたチョー大作「蒼き狼」を公開。だが、わずか13億円と、制作費を大きく割り込む大惨敗を喰らったこともあり、そこから角川先生が得た結論は、「世の中は大作を求めてねえ!」ということであった。
 角川先生の「目標60億円以上」は「有頂天」超えの意図もあると思われる。


 で、本作であるが。これ、悪くないと思う。


 いやあ、だって、角川先生の大作映画を見てていつも思うんだけど、ものすごく背伸びしてる感じがしてたんだよねー。それだけ理想が高いということだし、それはそれでいいんだけど、ああいう超大作で反町隆史風情が看板張っても、もはや看板倒れの感著しかったわけで。角川先生はあえて、「バラエティ」「踊る大捜査線」時代劇版、という風な、「軽さ」を狙っていったらしい。脚本を変えずに味付けを変える。
 角川先生のそういう姿勢もあって、本作はオリジナルよりもコメディ色の強いものになっている。


 実はこれが良かった。と俺は思う。


 黒澤映画の模倣ではなく、あえて物語の強靱さを恃みにコン・ゲーム的な面白さよりも、ドタバタ感のある感じに変えている。角川先生の森田芳光監督の起用も、コンセプトから考えれば的確。適度に肩の力の抜けた軽さのある演出を見せる。こういう演出をする森田監督は嫌いじゃない。
 織田裕二は演技派ではない。演技の引き出しも多くはない。だけど、だからこそ彼は、多くの作品で看板を張れてきた面がある。彼は三船を意識した演技をしてはいるが、基本は織田裕二である。そこに変わりはない。彼は完璧なモノマネができるほど器用ではないからこそ、逆に「ニセ三船三十郎」ではなく「織田三十郎」というキャラクターに変質させることに成功してる。
 そして脇には角川先生の秘蔵っ子であり出世頭、松山ケンイチ(彼がまたコメディリリーフ的ないい演技)が若侍のリーダー格をたよりなさげに妙演、そして三十郎らに捕らえられた敵方のひとの良い侍を佐々木蔵之介が出色の演技。彼の出演パートは、きちんと笑いが起こった。


 「用心棒」より先に公開したのも、今となってはいい判断。あれが先だったら違和感もあろうが、こちらが先ならば、織田三十郎も悪くない。
 比較すれば文句もあろう。黒澤監督のような力強いメリハリはないし、特に中村玉緒はミスキャストのような気もする。だけど、黒澤の名前に憶することなく、自分たちの色をいい方向に出していこうとする姿勢は決して悪い事じゃないと思う。そういう意味で、リメイク作としては、まずは重畳、というところではないか。(★★★)