虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「肉弾」(1968年製作)★★★


 「戦争が終わったんだって…?終わったんだってさ!ははは!」


 これは叫びだ。


 昭和43年に製作されたこの映画。その当時の平均寿命から昭和20年の平均寿命を引くと、21.6歳となる。主人公「あいつ」は同じ、21歳と6ヶ月だった(いや、それだと21.5じゃねーかという突っ込みはなしだ)。
 魚雷にドラム缶をくくりつけて、アメリカ船をさがして太平洋を彷徨う青年「あいつ」はもう一人の岡本喜八その人である。その時も、監督の中には亡霊が棲んでいたのかもしれない。


 戦争で死んだ人間ってのが英雄だけではなく、死んだのは「おれ」なんだっ!


 生き残ってしまった。生きてて良かった。この二種類の心が戦後、多くの日本人の心に去来しては揺れ動いた感情だったのではないか。「戦争ってなんだ。」選ぶことを許されないまま、熱狂し、送り出し、または送り出され、国のためと、家族のためと、あの娘のためと、おらが村のためと、信じ、いや信じなければとても向かえない死地へ向かった。あの「英霊」などと呼称される「亡霊」たちの中に、思わず自分の顔が見える。

 それが「あいつ」だ。「あいつ」は20年経った今でも、おれの中にいるのだ、と「岡本喜八」という一個人が大声で叫ぶ。「あいつ」はおれに向かって叫ぶのだと。白骨となった今でもドラム缶に体を横たえて、それでも大声で罵声を浴びせてる。


 きけ!「あいつ」のさけびをっっっっっ!!



 …という、職人監督・岡本喜八、一世一代のアジテートである。俺は、それを淡々と見てしまった。申し訳ない。正直、「生」過ぎて、ちょっと飲み下せない。岡本監督と同世代かそれ以上の人々には、非常に共感しうる話なのだろうけど、私みたいな戦後生まれの安穏と暮らしてきたガキには、共有するには壮絶すぎる。
 岡本監督が放った心の裡からの叫びを、「拝聴」したという、そういう意味しか見いだせなかった。悔しいけれど。