虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

2016年上半期感想書き損ねた映画たち

「オデッセイ」The Martian (リドリー・スコット

 突如起きた砂嵐がきっかけで火星にひとり取り残された宇宙飛行士が、みずからの知恵を駆使してサバイブする様を描いたリドリー・スコット監督最新作。
 いやあ、単純に面白かったですし、こういう映画を見たくて映画見ているところがあるので大変面白かった。

MASTERキートン 1 完全版 (ビッグコミックススペシャル)

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 自分がね。思い出したのは浦沢直樹先生の「MASTERキートン」の「砂漠のカーリマン」という話。同行していた教授たちが地元民族とトラブルを起こし砂漠に放り出された主人公の平賀・太一・キートンが、SAS仕込みの知恵で、一緒に取り残された人々とサバイブするエピソード。やっぱりそういうエピソードには単純に手に汗握るものを感じるし、知恵と前向きな気持ちで困難に向き合うという、その強さはただただ「かっこいい」と思うわけであります。
 だからこう、自分の中にある血肉になった知恵と楽天的な性格で前向きに「サバイブ生活をする」という主人公の強さ、そして仲間がみんな彼の生き残りのために動いていく物語というのはそれだけで嬉しくなってしまうし、こういう「人の善なるものを信じてもいいんじゃないか。」って気持ちにさせる作品を、ここまで予算を掛けて作れること、そしてそんな作品を80に手を届こうかというリドリー・スコット監督が撮ってくださったことはですね。ただただ、「感謝」ですよね。大傑作だと思います。大好き。(★★★★★)
 ちなみにボクはこの映画を見たあとこうつぶやいて結構な反響をもらったのもいい思い出です。

窓の外 on Twitter: "「オデッセイ」は最高だった。文句なし。問題はだ、豊島園から最寄駅への終電が終わってるって事だ。どう帰るかな。←お前が帰れなくなってどうする。"

映画の後も取り残され体験は続いたのでした。

ザ・ウォーク」The Walk(ロバート・ゼメキス

 ワールドトレードセンターの二つのビルの間をワイヤー1本で渡りきった綱渡り男の実話をロバート・ゼメキス監督が映画化。


 これはニューヨーカー御用達映画というかね、ランドマークとして開業当初のビルに潜入してそして、綱渡り師としての名声と命を賭けた無謀な挑戦に挑む綱渡りバカ一代の狂気の沙汰を描いた作品。なんで、あのビルの熱気ある様子が映ると、その時代を知ってる人はそれだけで涙ぐむ作品では無いかと思ったりしますね。
 やっぱり今は亡きあのランドマークの中に潜入して「違法行為」を成し遂げていく犯罪映画的な側面とそこに向き合うまでの狂おしいまでの葛藤、そして、あのわかっていても股がきゅってなる圧倒的な高低差の3Dが圧巻。あまりに何度も往復するので、逆にハラハラ感が薄まっていくのが難なのだけど、それさっぴいてもまあ、こんな事わざわざ命がけでやるか?という、理解の外にある人の話だ。
 今はない二つのビルを下にのぞき込むのを3D眼鏡で見るこの映画は、本当に映画館で見て良かったと思った映画でありますよ。なんてもんを作ってくれるんだ。怖かったですよ。大好き。(★★★★)


 ちなみに警視庁がこの映画とコラボしたポスターがあって、あまりの親和性に思わず写しちゃった。

『落ちたら終わり!「踏み外すな」人生のタイトロープ』

 人生も綱渡りも踏み外しちゃダメ!絶対!

「スポットライト 世紀のスクープ」Spotlight (トム・マッカーシー

スポットライト 世紀のスクープ[Blu-ray]

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 カトリック教会の性的虐待スキャンダルを暴いた新聞記者たちの実話。


 アカデミー賞の賞レースで最も地味で賞に絡まないように見えたこの作品がなぜ作品賞を獲ったのか、映画見てみるまでわからなかったのだが、実際に見てなるほど、これは・・・と思うところがあった。もちろん作品の質的にも優れた映画には違いない。だが、この映画が特筆すべきなのは、彼らが向き合った「敵」があまりに巨大で、そしてもっとも「近しい」存在ということである。
 神父による児童性的虐待において、その対象はあまりに広い。年齢性別など関係ないというところが問題で、そして被害者たちの多くは人生を破壊される。そして、新聞記者の中にもカトリック信者はいて、神父は昔から馴染みの深い存在だったということである。この映画で新聞記者たちは強大な力を持つ組織というだけではなく、最も身近でそして親しみすら覚えてきたその存在を相手に戦わねばならない。その苦しみは、日本人にとってはピンとこないところだけど、その近しい存在が自分を破壊したかも知れないという根源的な恐怖、そして彼らを告発しなければならない「罪悪感」を胸に彼らはスクープを取りに行く。
 正義とは、時に自らの痛みすら乗り越えて果たさなければならない。「スポットライト」で多くの会員に共感されたのは、新聞記者が抱えた「痛み」なのではないか、と思ったのである。(★★★★)

「レヴェナント/蘇えりし者」The Revenant(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ


 ようやくアカデミー主演男優賞を獲得したレオナルド・ディカプリオ主演の西部劇。荒野で息子を殺され、自らも殺されかけた男が酷薄な荒野を生き抜き、復讐を果たすまでの物語。
 一言で言えば、「ようやるわ。」の一言。正直「そこまでやらなくてもいいよね?」ということを映像でこれでもかこれでもかと表現し尽くす、その貪欲なまでのド変態映像の満漢全席。熊に襲われる、土に埋められる、逃げてる時に崖から落ちる。馬の体内に潜り込んで敵をやりすごす、とか編集で「そういうことしましたよー」って体にする事もできるのに、「すべてお見せします」とばかりに映像で再現する。そしてその事に徹底的にこだわり抜いて、手間暇予算をひたすらつぎ込む。しかもそれをやるのがあのレオ様。贅沢だけどどう考えても「どうかしてるな!」とも思う。正直見てるときは若干引き気味である。
 レオ様のオスカーへの妄執がこの映画に出るきっかけだとするなら、オスカーの魔力おそるべしと言わなければならない。
 物語は非常に王道の復讐劇というのに映像を通して見た後の手触りの生々しさはまるでカルト映画を見たよう後のような、そんな歪で、そしてあまりに監督の偏執に正直な映画でもあったというのが正直な感想。おなかいっぱいである。(★★★★)

「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」(宮藤官九郎


 宮藤官九郎監督作品4作目は、バス事故で死亡し、うっかり地獄に落とされた少年の冒険を描く。その主人公の死亡理由が実際に起きたスキーバス事故を想起させる、という理由で2月公開のはずが、6月公開となった。

 クドカンと言えば「あまちゃん」以降、テレビドラマなどではそのエキセントリックなコメディセンスは抑えめで、笑いとドラマツルギーのバランスを考えつつ、新たなる若者像の描き方を模索していて、その成果がドラマの最新作であり、新たなる代表作になるであろう「ゆとりですがなにか」へとつながっているのだと思うのだけれど。

 そんなクドカン氏が久々に「コメディセンス」のみをアクセルベタ踏みしたのが本作。一言で言えばくっだらねえーの一言。出てくるのは出オチの一発ギャグの乱れ打ち。それゆえに合わない人には徹底的に合わないであろうけれど、一度ツボにハマれば笑いっぱなしの映画になるという、そういうギャンブル性の高い作品となっている。くだらなさで言えばクドカンフィルモグラフィーでも随一だと思うので、そういう意味では「金をドブに捨てるつもりで劇場に笑いに行け!」というくらいしか言うことがない。いちいちギャグを説明するのも艶消しだし。俺はですね。中村獅童登場シーンで引くほど爆笑したので俺の負けです。(★★★★)

カルテル・ランド」Cartel Land(マシュー・ハイネマン

去年公開された「皆殺しのバラッド」に続く、メキシコ麻薬社会の暗部に迫るドキュメンタリー映画
麻薬カルテルが力を伸ばし、無法の限りを尽くす。そして警察は無力で手が出せない。そんなメキシコ・ミチュアカン州で1人の無名医師が立ち上がり、自警団を結成。自警団は麻薬カルテルを壊滅に追い込んでいき、軍隊も手が出せないほどの力を持つようになる。やがて自警団メンバーの一部が一般市民に対し、横暴な態度を取り始め、やがて麻薬を売るメンバーまで現れる。
そんな自警団に対し、政府は警察に帰属させることで自警団をコントロールしようとするのだが・・・。

市民のために立ち上がったはずの自警団が少しずつ歯車を狂わせ、やがて正義の集団から最悪の方向へ変質していくまでを克明に追う。声に出して「嘘でしょ?」とスクリーンに向けて声を上げてしまうような、そんな地獄メキシコの実態が浮き彫りになる。どうなってんだ、この世界は。
立ち上がった時は間違いなく「正義の集団」だった人々が、力を持つ事で変わっていく。悪を駆逐した正義はどこへ向かうのか。その本質に迫った力作。

「ビューティ・インサイド」뷰티 인사이드(ペク)

ビューティー・インサイド [DVD]

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毎日容姿が変わっていく青年がある日、一人の女性に恋をした。そんな一風変わった恋愛映画。

性別年齢問わず、あらゆる人物にメタモルフォーゼする青年。そんな青年の恋人になった普通の女性の、恋の話。
予告編なんか見てる時は「こりゃ珍品映画になるんじゃないか」という懸念を持ちながら見始めたらさにあらず。映画の魔力と恋愛の本質に迫る、なかなか鋭い映画であった。

好きになったのは「あなた」自身だと彼女は言う。けれど「彼」が毎日会うごとに体が変わる事、なにより彼女自身が「彼」を容姿が別人になるがゆえに見つける事が出来ない。それらに戸惑い、やがて青年そのものの「存在」を見失っていく過程が「人を好きになる」ってなんだろう、という本質を突いてくる。毎日姿が変わっても、変わらず「彼」を好きでい続けられるのか。


男女世代を超えた計100人以上の俳優が登場し一人の青年を演じる面白さに加え、恋愛における「容姿」と「人格」の認知との関係性について観客に突きつけるこの映画は、映画ならではのラブストーリーとしてかなり面白い境地に至っていると思います。超大好き。(★★★★☆)