虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ピクセル」

toshi202015-09-14

原題:Pixels
監督 クリス・コロンバス
脚本 ティム・ハーリヒー/ティモシー・ダウリング


 1982年にNASAアメリカ航空宇宙局)は地球外生命体に向けて当時流行していたゲームを収録した映像などを友好目的として送った。だが、それを見た異星人はメッセージを"果たし状"と誤解してしまう。
 そして2015年、異星人たちは映像を基にゲームのキャラクターをドット絵的なブロック化する兵器として再現し、地球に送り込むのであった。


 地球を救うためにアメリカ政府が集めたのは、今は冴えない日々を送る1982年当時のゲームチャンピオンたちだった。奥さんに逃げられ、現在はテレビゲームの配線を繋ぐ仕事をして糊口をしのぐ元「ギャラガ」チャンピオン・サム(アダム・サンドラー)。ゲームの女性キャラクターを一途に思い続ける陰謀論好きで宇宙人のメッセージにはじめに気づくラドロー(ジョシュ・ギャッド)。「ドンキーコング」チャンピオンで、色々あって今は刑務所に放り込まれてるエディ( ピーター・ディンクレイジ、)。地球は一体どうなるのか!大丈夫か!


てな感じの映画。


 結論から言うと。この映画はね。素晴らしいものである。ある意味エポックメイキングと言っていい。


 自分は、小学生から大学生にかけてまで、よくゲーセンに出かけていた世代である。放課後、塾の帰り、休日。小銭を抱えてゲームセンターに駆け込むのは日常茶飯事だった。ゲームセンターにはファンタジーがある。


 家庭用ゲーム機の映像的に貧弱だった時代、ゲームの技術の最先端はゲームセンターにあった。ゲームセンターは巨大市場であると同時に、ゲーム会社が技術の粋を集めて作り上げる巨大な実験場であり、その先端技術を利用したゲームたちを体感する喜びにあふれていた。あの頃のゲームセンターにあったもの。それは「ときめき」である。


 今でこそテレビゲームは実写と見まごうばかりの映像であふれている。だが、かつての日進月歩だったゲーム業界はアーケードゲームで積み上げた最先端の映像を、如何にテレビゲームにフィードバックするかで血眼になっていた時代が存在する。
 ドット絵はより精細に緻密になり、それが3DCGの普及と技術革新によってイケるところまでイッた技術は飽和し、もはやテレビゲームで最先端の映像に触れることが出来る時代。きれいな映像のゲームならテレビゲームで十分だし、友達とつながるゲームはスマホゲームがあればいい。


 しかし、そんな今の時代へと技術的にリードしていた文化の一端は間違いなくゲームセンターであり、そしてそれを支えていたのは僕らがゲーセンに持って行く小銭だった。



 ゲームセンターに関する映画で最近のヒット作と言えば、ドット絵キャラのラルフと3Dキャラのヴァネロペの交流を描いた「シュガーラッシュ」である。アニメーションとしては確かに秀作であり、ボクも好きな映画なのであるが、シュガーラッシュに足りないのは、「技術革新」によってゲームの位相が変わっていったときめきである。つまり、「3DCGキャラもドット絵キャラも同じ位相を共有してる」ことが大きな不満なのだ。ゲームセンターに通っていた記憶と、その世界はシンクロしない。時代によってゲームは日進月歩で進化し、そのたびに僕らは新たな世界に引き込まれる。
 ドットキャラのラルフと最新3DCGキャラのヴァネロペが同じ世界を共有する世界というのは、時代によって位相が変わっていく世界だった僕らのゲーセンの記憶からすれば「あり得ない」ことである。僕らの「記憶」に鑑みるならば、彼らの住む次元自体が違うはずのことだ。




 で、本作である。
 「ピクセル」がアイデアがゲームセンターに通っていた人間ほど唸らせるのは、それは「1982年」という、はるかに積み上がった地層の奥に埋没してしまった「位相」を真空パックしたまま、それが侵略宇宙人によって現実化して再現させるアイデアである。これはね、なるほど!とヒザを打ちましたよ。おっさんゲーマーが待っていたのはこういう映画だ!と。
 そのときめきが、宇宙人の侵略というかたちで真空パックしたまま帰ってくる。この映画が見せるのは、かつてのゲームセンターに存在した「ときめき」の再発見である。


 設定が現実的では無い?その通りだ。話が荒唐無稽?あり得ない?まったくだ。
 だが、映画はそんなファンタジーを描く場所じゃなかったか。真空パックされた「1982年ゲーム」の侵略は、「時代によって位相が変わってしまった」ゆえに現代に適応しきれない冴えない中年親父たちが、輝いていた自分たちを取り戻す物語として見事に機能している。クリス・コロンバスはかつてヒットメイカーとして一世を風靡した頃の、荒唐無稽なファミリー向けコメディを飄々と描き出していた、かつての作家性をイキイキと取り戻している。男達がかつて本気になったものに向き合った結果、誰も不幸にならない映画。こういう映画があってもいいじゃないか!


 現実世界に降臨し、人類を侵略し始める懐かしのゲームたち。「パックマン」との死闘に手に汗握り、「ドンキーコング」のラストバトルに興奮する。
 懐かしいけど新しい。おっさんたちには懐かしさとかつての「ときめき」を、若者達には一周回った新しさとブラッシュアップされた「ときめき」を。この映画はベテラン監督の手練手管と、最新3D技術の粋を融合した、かつてのゲーマーたちも納得の「ゲームセンター」映画のエポックメイキングな革命的作品である。かつての熱きアーケードゲーマーだったおっさんたちよ。見るべし。超・大好き。(★★★★★)

ゲームセンターあらし 1

ゲームセンターあらし 1