虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「オール・ユー・ニード・イズ・キル」

toshi202014-07-09

原題:Edge of Tomorrow
監督:ダグ・リーマン
原作:桜坂洋All You Need Is Kill



 「ギタイ」というナゾの生物との戦争の渦中に放り込まれた、戦闘未経験の男が出会う、数奇な物語。である。


 戦争というのは「関わる者の生命」の「保証」を排除することで始めることが出来る。自らの命の喪失及び身体損壊。その可能性を排除するには相手を「殺す」しかない。わけである。
 だが、相手は人ですらない。「侵略」に特化された「宇宙」からの生物である。人類にはとても敵に回して勝てる相手ではない。
 では、どうすればいいのか。


 リセットして勝つまで戦争やりなおせばいいじゃない!・・・そんな話である。


 戦闘に対して逃げ腰な軍の広報担当官ウィリアム・ケイジ少佐(トム・クルーズ)は、戦闘経験が全くないにもかかわらず、上官とのいざこざで、気がつくと最前線基地に送り込まれてしまい、戦闘に参加した結果あえなく戦死してしまう。
 しかし、死んだはずのケイジが意識を取り戻すと、戦闘前、送り込まれた前線基地で目が覚めた時間に戻っていた。再び戦死するとまた同じ時間に巻き戻り、タイムループから抜け出せなくなったケイジは、ある「ルート」で軍最強の女性兵士リタ・ヴラタスキ(エミリー・ブラント)に「目が覚めたら私を探して」という「遺言」をもらう。
 次に目が覚めた時、ケイジはリタに会い、彼女もまた同じ「ループ」体験者だということを聞かされる。こうして、ケイジは戦闘、または訓練しては「死ぬ」を繰り返して、兵士としてのスキルを上げる「死に続ける日々」が始まった。



 かつてゲームセンターに通っていた頃の記憶を呼び覚ます。
 大量の段幕をそのようにくぐり抜ければ勝てるかを「記憶」していたスクロール系シューティングゲーム、敵が出てくるタイミングを身体にたたき込んで次々と敵を撃ち殺すガンシューティング・ゲーム、高速で流れてくるマーカーのタイミングを熟知してクリアしていく音楽リズムゲーム。キャラクターのあらゆる複雑なコマンドを身体にたたき込んでいつでも素早く出せるようにすることで、勝てる可能性を上げていく対戦型格闘ゲーム
 いわゆる繰り返し「コイン」を投入しつづけることでプレイヤーのスキルを上げることで、より「クリア」や「勝利」に近づいてくゲームたちの感覚を、この映画は再現してみせる。


 だからこそ、この映画は初めは右も左もわからない腰抜け戦士だったケイジが最強の「兵士」に近づいていく過程を、「体感」することができるし、その「レベルアップ」に共感することもできる。
 そして兵士としての能力を限界まで高め、あらゆる可能性を試しながら「死に続けた」ケイジとリタ。だが、どうやってもこの「戦争」をクリアできないと悟ったとき、2人は「戦闘」以外の方向で、この「無理ゲー」クリアの可能性を探し始めるのである。


Spike The Best 428 ~封鎖された渋谷で~ - PS3

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 この映画の脚本の見事なところは、「ゲームオーバー」して「コンティニュー」する繰り返しのためだけの設定だと思われたこの「ループ」能力を、今度は「バッドエンド」を迎えたらその都度一定の時間に戻って「やり直す」という、「サウンドノベル」方式に転換することである。つまりあらゆる「最悪の可能性」を排除し、経験した上で、今度は戦闘以外の方法で、敵の「大ボス」を排除する方法を模索し始めるのである。
 戦闘のスキルアップだけではなく、「人生のルート」の幅を拡大することで、行き止まりしかないルートをつぶしながら、たったひとつしかない「活路」、真の「トゥルー・エンド」ルートを導き出す方向に舵を切るのである。


 この映画はアーケードゲームの記憶を揺さぶりながら、同時にテキストアドベンチャーの面白さをも兼ね備えた物語を有することで、この映画はより深化していくのである。かつてのケイジでは見ることの出来なかった「風景」を次々と映し出しながら物語は力強く進んでいく。
 あらゆるジャンルのゲームの面白さを恃みにしながら、やがて、それを踏み台にしてより高みに向かっていく物語こそ、この映画の見事なところであろう。大好き。(★★★★☆)