虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「舞妓はレディ」

toshi202014-09-13

監督・脚本:周防正行



 周防正行監督最新作である。




 さて。



関連エントリ
木戸銭払っても見たいテレビドラマ - 虚馬ダイアリー
朝ドラTwitter実況の三者三様 - 虚馬ダイアリー


 最近私が、よく朝ドラというジャンルを見ているということは以前書いた。
 朝のテレビ小説というジャンルの主人公(ヒロイン)は、ほぼ必ずと言っていいほど、若手女優がなり、そしてそれを固めるように大御所や、ベテラン中堅が脇をキッチリ固めるという形が言わば当たり前になっている。構造としては非常に朝ドラの構造にすごく似ている。
 周防正行監督としては珍しく、若手女優をヒロインに絞り、舞妓芸妓の世界に飛び込んだ少女の成長にドラマの主軸を置いた。その軸の周りで周防組常連の人そうでない人、さまざまな年代の脇役たちのドラマを配置するという構造である。


 周防監督は取材や考証の確かさでは群を抜いた人である。以前、ラジオ番組「週末TSUTAYAに行ってこれ借りよう」という番組で八代英輝弁護士がゲスト回で、八代氏が周防監督の痴漢冤罪裁判を扱った前々作「それでもボクはやってない」を「裁判部分で描写の誤りの部分を(職業病でつい)探したがついぞ見つからなかった」と絶賛していたように、非常にリアルな考証に裏打ちされた描写ができる監督である。ゆえに近作のシリアスな作品であっても映画としての完成度は抜群に高い作品を連打してきた。
 しかしながら、彼の本来のホームグラウンドは「コメディ」である。非常にまじめできっちりしているかと思いきや、それをあえて崩すことを恐れない。そのしなやかな強さこそ、周防作品の真骨頂だと思う。その「安定・安心・信頼」の周防コメディが帰ってきた。しかも今度はミュージカル!というから、彼のフィルモグラフィの中で最も実験的と言っていい。


 取材とリサーチに裏打ちされたリアルを、ミュージカルによって戯画的に崩して見せている。


 そして、ここでなぜ本作が「朝ドラ」構造なのか、その本質が見えてくる。
 周防正行は今回、上白石萌音という女優の原石を見つけ、その中で如何に彼女を「本物」としてスクリーンの中に輝かせるかに腐心している。彼女が京都の花街のオープンセットの中を、スーツケース持ちながらはじめての街を心細げに入ってくる彼女の姿は、うっかり映画の中に紛れ込んだ素人さんのようにも見える。


 彼女が演じる春子は、今では舞妓が一人しかしない「下八軒」に「舞妓になりたい」と飛び込んできた少女であった。彼女はそのたった一人の舞妓・百春(田畑智子)がアップしているブログを見て、単身、下八軒のお茶屋・万寿楽に飛び込んできたのであった。しかし、春子は津軽と鹿児島のハイブリッドという、強烈ななまりを抱えていて、女将の千春はどうにもならんと追い返そうとする。
 舞妓になるには後見となる紹介人が要る。春子にはそういうつてはなかった。だが、そこに一人の男が後見人になると名乗り出る。その男は言語学者の大学教授・京野(長谷川博己)であった。彼女のなまりを直し、晴れて舞妓にしたら、お茶屋遊びの面倒全部見るという約束まで取り付けて、京野は春子の後見となった。
 こうして春子は下八軒の舞妓の仕込み(見習い)となり、修行となまり矯正に明け暮れる日々が始まるのであった。



 上白石の女優としてのオーラのなさに加え、所作どころか正座ひとつおぼつかず、舞妓としての素養もはじめはあまり感じさせない春子の様子は、そのまま嘘偽りない「原石のままの上白石萌音」なのであろうと思う。そんな彼女が、見知らぬ文化の中で七転八倒し、ヒロインとして不器用にひとつひとつ、一歩一歩進んでいく姿を、まだ16歳の上白石萌音という女の子が、主演女優という重責の中で、女優として成長とシンクロさせながら描いていくわけである。


 もちろん社会派映画も撮る周防監督のこと、花街の「一見さんおことわり」システムが決して「頑迷固陋」なだけのシステムじゃなく、しなやかに客をもてなすための「方便」である様子や、舞妓芸妓の「水商売」でもあるという側面、恋に生きることの難しさによる舞妓芸妓たちの悲哀も、華やかなミュージカルシーンの中に織り込んでみせるのであるが。


 それでも、周防監督のフィルモグラフィの中で群を抜いた「瑞々しさ」を感じさせるのは、そんな旧弊もある社会の中で、いいもわるいも、きれい汚いも飲み込んで、「本物」の舞妓に向かってまい進し、やがて「本物の女優」「本物の舞妓」になっていく姿を、上白石萌音に体現させるからである。
 彼女が舞妓としてデビューするシーンはあまりに「キレイ」で「華やか」で、スクリーンに初めて登場したときのようなオーラのなさは微塵もない、「本物」の「女優」がスクリーンに立ち上がる。一人の少女の成長を主演女優の成長とともに観客が見守り、やがて、誰もが彼女を好きになる。そんな「女優」上白石萌音の映画になっていると思うのである。


 そういう意味ではまさに、周防監督の新境地、重畳ではないでしょうか。周防監督作品の中で最も若々しい映画である。そう思いました。超・大好き。(★★★★☆)

ちりとてちん 完全版 DVD-BOX I 苦あれば落語あり(4枚組)

ちりとてちん 完全版 DVD-BOX I 苦あれば落語あり(4枚組)