虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「サイド・エフェクト」

toshi202013-09-15

原題:Side Effects
監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:スコット・Z・バーンズ



 世界と対峙するとき、僕らには常に予断がある。


 数多ある事象から見たいものを見て、自分の都合の良いものだけを選び取って、それを世界と認識している。だから、時に、その予断を越えた事態に遭遇したとき、戸惑い、翻弄されて、そして絶望する。


 この映画は、ある女の「予断」が産んだ話である。
 幸せな結婚。これから歩むはずだった最高の人生。夢想は広がる。その夢想は一瞬のうちに、現実に飲み込まれていった。
 この物語は、そんな彼女の「予断」が招いた人生の「副作用」から始まる。


 若く美しい女性、エミリー(ルーニー・マーラー)は実業家の夫・マーティンのインサイダー取引によって逮捕され、幸せの絶頂から突き落とされた。夫が収監中に精神に変調を来し、医師からは鬱病と診断された。夫の出所後に少しずつ快方に向かうかと思われた矢先、彼女は突発的にとある駐車場で、車で壁に向かって突進するという「自殺未遂」を起こしてしまう。
 病院に運ばれた彼女を担当したのが精神科医のバンクス(ジュード・ロウ)だった。彼女のうつを治そうと既存の薬を試したが、一向に回復の兆しを見せないエミリー。悩んだバンクスは、薬剤会社が売り出し中の抗鬱の新薬を彼女に処方する。効果はてきめんであり、エミリーは夫との幸せな生活を取り戻したと満足している。
 しかし、エミリーの夫であるマーティンはその新薬による副作用を目撃し、服用に反対しはじめる。その薬を服用してからエミリーは夢遊病を発症してしまうというのだ。だが、その記憶がないというエミリーは、新薬の続行を希望。その希望を呑む形でバンクスは新薬を改めて処方する。


 だが。後日、その処方が、とんでもない事態を引き起こすことになる。夢遊病状態のまま、エミリーが夫を包丁で刺し殺したというのである。
 薬の「副作用(サイド・エフェクト)」によって引き起こされた殺人。そんなことが起こりうるのか。全米が注目する騒動となったこの事件に、薬を処方したバンクスは、否応なくその渦中へと巻き込まれていく。


 若くてウツクシイ女性が人生に悩む姿。観客はそれを見て彼女に対して、心から我が事のように思い、大いに同情する。そして、なんとかしてあげたいと願う。その気持ちと同調するキャラクターがジュード・ロウ演じるバンクス医師である。しかし、バンクスはやがて、「重大な見落とし」によって人生崩壊の危機に直面することになる。観客はその過程に恐怖する。
 こんなはずではない。こんなことが起こっていいはずがないと。


 そして、バンクスが「見落とし」がなんであるか気がついた時、物語はまったく違った顔を見せることになる。その鮮やかな反転。世界の見え方がひっくり返るように、物語はその様相を変える。その手際の鮮やかさに思わず息を呑む。


 真実は常に目の前にある。そんな鮮やかなテーブルマジックを見るような、映画の「詐術」による「嘘」を物語に大胆に組み込み、そして見せきった、スティーブン・ソダバーグ、一世一代のサスペンス映画である。(★★★★☆)