虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ステキな金縛り」

toshi202011-10-29

監督と脚本:三谷幸喜


 ここ最近裁判に負け続けの、天才弁護士の娘であり、そして弁護士の宝生エミ(深津絵里)は弁護士事務所所長(阿部寛)から、ラストチャンスとして、ある殺人事件の弁護を任されます。資産家の女性が殺害された事件。容疑者は被害者の夫。だが、夫はアリバイがあると主張します。彼は事件が起きていたその時刻、金縛りにあっていたというのです。
 あまりにもばかばかしい。しかし、だからこそ助かりたかったらそんな主張はしない。おそらくそれは「本当に金縛りに遭っていた」からだ。そういう見立てを所長から聞かされ、彼女はとりあえずその、「アリバイ証人」を探しに、容疑者が事件当夜泊まっていたという旅館に赴く。
 その旅館で、彼女が出会ったのは、更科六兵衛(西田敏行)という名の、落ち武者姿の幽霊でありました。エミはその幽霊にとんでもないお願いをします。裁判の証人になって欲しいと。そして、六兵衛は引き受けます。
 こうして、幽霊を証人にした前代未聞の裁判が幕を開けた。


 さて。当代きっての天才喜劇作家、そして希代のテレビ出たがりおじさんこと三谷幸喜の新作映画であります。
 元々、天才戯曲家として世に知られた人だけに、映画を撮りたいという欲求とはうらはらに、映画の規模が大きくなればなるほど、舞台が劇場には収まりきらない巨大な演劇場と化していくのが、ここ最近の「三谷幸喜映画」作品での傾向でありまして、巨大ホテルを舞台にした「THE 有頂天ホテル」からまるまる街そのものを造り出した「ザ・マジックアワー」に至ると、もう行くところまで行き着いたな、くらいの映画だったわけですけど。
 今回は、ここにきて方向転換をしたな、と思ったのは「小品」の作品を作ろう、というところから出発しているように感じられたんですね。「幽霊が裁判の証人になる」というワンアイデア勝負。そこから如何にして物語を膨らませるか、という方向に触れたのは、良かったと思う。


 で。面白かったですよ。笑いを生み出すシチュエーションづくりはさすがの一言で、特に裁判の相手検事役の中井貴一が絶品。主人公はあくまでも深津絵里の弁護士で彼女もキュートなんですけど、むしろ作品世界に対する三谷幸喜の目線は中井貴一を通して見ているようにも見えました。

 ただ。
 物語のメインはあくまでも「幽霊裁判」なんですけど、三谷幸喜はあまり幽霊ものをやったことがないからか、「幽霊を使ったシチュエーションコント」にいやにご執心で、話がちょいちょい脱線する分、物語的にはゆるめ。豪華なキャストが多数出演するのだが、その使い方も、役の必然性よりしかも、「にぎやかし」の要素が強く、そりゃあ売れない役者役に前作までの出演者が出てきたり、ちょい役のファミレス店員に「深田恭子」が出てきたら「うおー!」とか思いますけど、映画のバランスを考えたら、そこは無名のコであるべきだったりする。
 そして。この「裁判×幽霊」というアイデアにはすでに先駆者があって、ちょいちょい既視感が出てくるのは気になった。しかもそれが多くのファンを持つ作品なんですよね。
 そう。これです。


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逆転裁判2 NEW Best Price!2000

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逆転裁判3 NEW Best Price!2000

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 ゲーム界の天才シナリオライター&ディレクター・巧舟の代表作です。
 いや、予告編見た時から嫌な予感はしていた。比較するつもりはさらさら無かったのですが、こちらを先にやっていると、映画から既視感しか出てこないんですよね。三谷幸喜はあまりゲームをしない方だと思うので、ご存じないかもしれないが、「逆転裁判」シリーズのヒロインは「霊媒師」の娘さんで、シリーズを通して「霊媒」という設定が大きく関与している。シリーズの終盤はまさに「霊媒」を使った幽霊が大きな関わりを持つ殺人事件の話で、物語の濃度もクライマックスだけあって濃厚。しかも映画のどんでん返しとも言うべきある「トリック」や、その真相が知れる過程など似ている箇所がちょいちょいあって、「うわー既視感あるわー」と思いながら観てしまった。・・・どっちの作品についてもネタバレになるので言えないけれど。
 そして問題は。物語の終盤の、裁判の落着のさせ方ですよ。・・・それはやってはいけないんじゃないの?ということをやっちゃうんですね。「逆転裁判」シリーズでは周到に避けてきた部分を、物語のクライマックスに持ってくるのは、ちょっと苦笑してしまった。


 笑って泣ける。その点に関しては嘘はないし、画面の賑やかさも楽しい。劇場で見知らぬ人と笑い会える映画だから、三谷印映画として文句はない。
 ただ、ただ、想像した以上に物語がゆるい。三谷幸喜が生み出してきた傑作群が本来持つゆるさと鋭さを見事に使い分けてクライマックスを盛り上げるようなところまで、物語を昇華しきれていないのもまた事実で、その点は残念だなと。画面の賑やかさよりも、キャラクターの数を抑えて物語の濃度をぐんぐんに上げた三谷映画がまた見たい、という期待を込めての★3つ。(★★★)


ゴースト トリック NEW Best Price! 2000

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↑幽霊シチュエーションものとしては、こちらもおすすめ。