虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「キサラギ」

toshi202007-06-22

監督:佐藤祐市
脚本:古沢良太



 マイナーグラビアアイドルの一周忌に、ファンサイトの呼びかけで集った男5人。とあるビルの屋上の一室で見知らぬ男たちが顔をそろえて彼女の足跡を語り合う。だが、一人が言う。「彼女は殺された」。その一言から物語はあらぬ方向へと転がりだす。



 陰惨なサスペンスにもなりかねない題材での、サスペンスを交えた喜劇。ロジカルな密室会話劇としてはなかなか良くできた脚本。はじめに「真実」ありき。そこへ向かって物語は多少のくすぐりも交えて、二転三転しながら進んでいく。すべての物語を俯瞰して冷静に考えると、非常に現実には起こりにくい話ではあるのだが、それを「出会ってしまった」前提を作った上で、登場人物の個性を会話と展開の妙で丁寧につないでいくあたり感心する。特にネットという「匿名性」によるキャラクターの落差を物語のつかみに使ったのは大正解。「オダ・ユージ」はキャスティングの妙もあって大爆笑。出オチスレスレだよ、そのネタ。
 物語の骨格、およびシチュエーションの構造も意外とシンプルに作ってあって、なかなか侮れない。アイドルという「虚像」に集った人間たちによって明らかにされていく彼らと彼女の「実像」という構造が、ミステリーとしても結構面白い。


 ていうかね。ここまでストレートな三谷幸喜フォロワーなシチュエーションコメディに真っ向勝負で挑んで、ある程度きちんと成立している、というだけでも、俺は見ていてニヤニヤしちゃう。嫌いになれるわけがない。ま、だからこそ気になってしまうところもあるんだけれども。
 たとえば、真相の核心に入ったときにキャラクターたちの察しが悪すぎる。まあ、キャラクターの性格を留意したのかもしれないが、ここはむしろデフォルメしてでも会話のテンポを重視するべきところを「モタモタっ」とした流れにしちゃったのはもったいない。察しのいい観客はあれだけわかりやすい伏線があれば大体のかたちはわかっっちゃうんだから、もったいつける必要なんてない。そこがひとつのクライマックスなんだから、一気にテンポアップすべきところだろう、と思う。落語で言うなら盛り上げどころ、手練手管の見せ場なわけじゃない。ああいう場面は下手に観客に考えさせる暇を与えないことが肝要*1だ。場面転換やクライマックスにもっと切れ味があれば、ドンデン返しももっと効果的になったはずなのだ。
 あとは、いくら「舞台劇風味」と言ってももうすこし映画として映える画作りはしてほしかったかなあ。演出をシンプルにしたいなら、それに負けないだけのセットは欲しかった。あの、如何にも「セットでござい」という貧弱な感じがちょっと泣ける。密室劇なんだから、せめてメインの舞台くらいは金をかけようよ。


 などなど、いろいろ注文もあるんだけれど、とにかくこういう喜劇を果敢に作ってきてくれた事がうれしい。「虚像/実像」のカードの切り方も面白かったし、パズルのピースがあるべきところにきちんとハマッていくのを見るのはやはり楽しい。一気呵成に見せ切れたなら、秀作と呼んで差し支えなかったのだが。盛り上げどころでの物語のテンポの上げ方を覚えて、下手な愁嘆場や、アイドルの歌で踊るなどの蛇足な場面をばっさり切る勇気が持てれば、古沢良太さん、大きく化けるかもだ。更なる精進と大いなる飛躍を期待しての星3つ。(★★★)

*1:その呼吸の上手さが三谷幸喜の天才の所以だと思う。