「華麗なるギャツビー」
原題:The Great Gatsby
監督:バズ・ラーマン
原作:F・スコット・フィッツジェラルド
脚本:バズ・ラーマン/クレイグ・ピアース
1920年代。第1次世界大戦の特需景気に沸き立つニューヨーク。その片隅で証券マンとして生きるニック(ドビー・マグワイア)は、宮殿のような豪邸に住み夜ごとド派手なパーティを開く隣人「ギャツビー氏」(レオナルド・ディカプリオ)から招待を受ける。彼の存在は謎に包まれていて、毀誉褒貶さまざまな「噂」が飛び交っていて、親戚のブキャナン夫妻宅でも噂を聞いた。そして、パーティが最高潮になったとき、ニックは、ギャツビー氏と邂逅を果たす。
ギャツビー氏は自らの経歴を語る。金持ちの家に生まれ、世界を旅し、第一次世界大戦に従軍して、大活躍で勲章もたくさんもらった。えっへん。そう、ドヤ顔でニックに語るギャツビー氏を見ながら、さすがに「ほんまでっか?」と思うニックだが、隣の宮殿は現実に彼のものであったし、毎夜開かれる豪奢なパーティは彼の言っていることを裏付けているように見えた。
彼が毎夜、パーティを開くのには目的があった。1人の女性を自分に振り向かせ、過去に戻ってイチからやり直したいと思っていたのである。
- 作者: こうの史代
- 出版社/メーカー: 平凡社
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そして天岩戸は開く。ニックを通じて、彼はデイジー・ブキャナン夫人(キャリー・マリガン)と再会を果たす。
戦争と経済発展が強い結びつきであったアメリカの虚飾の栄華の中で、成り上がった男。身のこなし、スタイル、言葉遣い。すべてが優雅で気品がある。そして、何より純情。というその落差のある「ギャツビー氏」をディカプリオが演じる。彼がもっと若くてやせていた頃だったらこの配役、完璧だったんだろうが、今のデカプーはちょっと貫禄つきすぎたせいで、「華麗なる」貴公子を演じて見せても「明らかに裏でなんかやってそう」感がにじみ出てるのが惜しい。
だが、デイジーと再会する際に、どうしていいかわからず、とりあえずニックの家に高級な花で埋め尽くし、デイジーが来ると舞い上がった挙げ句、緊張のあまり挙動不審になり何もしゃべれず、いたたまれなくなったニックが出て行こうとすると、「いやいやいや」と押しとどめはじめるミニコントに思わず大爆笑してしまい、「ギャツビー氏」が大好きになってしまった。ギャツビーかわいいよギャツビー。
やがて、「ギャツビー」はデイジーと急速に仲を深めていくことで始まる、ひとりの女に運命を翻弄される悲運の物語がこの映画の表の主題であるが、この映画のもうひとつの主題は、ニックがギャツビーという男に惚れていくという、やや「BL」的要素もあるということである。物語は、10年後にうらぶれた療養所にいるニックが、医師に対してギャツビーについて語り始める、という構成で始まっている。
男が男に惚れる、というのとはちょっと違う。ニックは「ギャツビー氏」のようになりたいとは思ってはいない。だが、彼の純粋な部分、はじめは偽りの自分を語っていた男が、次第に心を開き、自分の出自を語り始めるという「ギャップ」にニックはやられていく。
「この世界の人間はすべてクズだ。君だけが、価値がある。」
最終的にはそこまで言ってのける。これはお世辞ではないだろう。ニックはおべんちゃらを言う男ではない。どうしても伝えたかったのだと思う。
「オラは東北の貧農の出だべ。」日本語にすればそんななまり全開であろう「俺らニューヨークさ行ぐだ」物語を聞き、やがて、デイジーとの「上昇し続ける」未来を無邪気に信じ続ける「虚飾の貴公子」ギャツビー氏に哀れを感じもする。そんな未来は、ない。覚めた目で社会を見つめるニックは、それを感じているが、だまって彼の話を聞いている。
そして、そんな危うい男だからこそ、ニックは惹かれていったのだと思う。やがて、予感は現実になり、ギャツビー氏に破滅の影がちらつきはじめる。
その顛末は、序盤で開かれるバズ・ラーマン渾身の演出による、ド派手なパーティーシーンとの落差でいよいよもの悲しく、切ない。そして、その哀しき運命にニックは最後まで寄り添うのである。やがて、彼が10年後に「ギャツビー氏」について書き上げた時、ただ「ギャツビー」とだけ書かれたタイトルに言葉を付け足す。
あまりにも野心的で、哀しく、そして純粋。だからこそ、彼は心からそこに「偉大なる(華麗なる)」という言葉を捧げる。それは哀れだからではなく。自分には決して持ち得ないものをすべて持っていた男に対する、ニックの純粋な賛辞なのだと思った。(★★★)
- 作者: フィツジェラルド
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