虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ウォレスとグルミット/ベーカリー街の悪夢」

toshi202009-07-26

原題:Wallace & Gromit in A Matter of Loaf and Death
監督・原作:ニック・パーク
脚本:ニック・パーク、ボブ・ベイカ



 第1作「チーズ・ホリデー」製作から今年で20周年だそうである。


 そんなんなるかー・・・と思ったのだけど、、考えてみれば2005年製作(日本公開2006年)の長編「野菜畑は大ピンチ」自体がシリーズ10年ぶりの完成だったのだから、短編新作となる本作は、「危機一髪!」からなんとシリーズ14年ぶりの短編なのである。ほへー!そんなんなるかー!!
 「野菜畑〜」公開されて間もなくの05年10月にアードマン・スタジオの倉庫が火災にあって財産である小道具やセットが焼失する悲劇にも見舞われながら、このように新作をみることが出来るようになるとは・・・まずは、生きてて良かった・・・・と思ったデスよ。
 新作含む短編4作一挙上映、という貴重な機会、まずはお見逃しなく、と言っておこう。


 スタジオジブリの「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」が配給ということで、新作「ベーカリー街の悪夢」で萩本欽一氏が演じたウォレスを津川雅彦氏がバトンタッチし*1、同時公開される短編の過去作についても新キャストによる吹き替えになって、字幕版も新たに字幕を作り直している。その比較についてはあえて言及しないけど、シリーズ的には「危機一髪!」より登場した、スピンオフ「ひつじのショーン」の羊ちゃんが、「プルプル」からちゃんと「ショーン」に変更されたのは大きいかな、と思う。


 で、新作。もうドキドキしながら、見たわけですが・・・変わらないなああああ!面白い面白いね。
 第2作以降は基本的に同工異曲というか、ストーリー自体はウォレスとグルミットが誰かと親しくなるんだけど、それは大抵「裏に目論見がある」くせのあるキャラクターたちで、ふたりの関係を引っかき回したりするんだけど、今回もその筋自体は変わらない。だけど、小道具やセットの細やかな完成度、キャラの感情豊かな演技や嫉妬に狂う(笑)グルミットのリアクションの可愛さも含め、緩急の息づかいも完璧な演出の畳みかけももはや職人芸で、とにかく画面を食い入るように見つめさせる、その「腕力」は健在。まずは必見である。


 ここからネタバレ注意。


 ただ、明らかに変わったな、と思ったのは、女性キャラの「造形」である。とにかく今回、ウォレスとグルミットが相手にするのは、一言で言えば「ミザリー」みたいな女である。完璧に「裏の顔」と「表の顔」を使い分ける、今回の女性キャラ・パイエラの、そのしたたかさと悪意の深さは「危機一髪!」のウェンドレンとは一線を画する狂いっぷりで、まさに「戦慄」である。
 パイエラが女性の「陰」の部分を代表する存在ならば、「陽」の部分を受け持つのが彼女の飼い犬「フラフルス」である。


 映画を見終わった後に、ふと疑問だったのは、なぜパイエラは彼女の「行為」に対して「裏切り」を続ける犬「フラフルス」を飼い続けたのだろう、ということだった。ボクが考えた結論は、「善」の部分を切り捨てて完全に「ある恨み」を晴らすためだけに生きる存在になってしまったパイエラが、彼女の心にほんの少し残った「狂ってない」部分が、「フラフルス」を必要としていたのではないか、ということだ。
 クライマックスでの「女同士の戦い」はまさに、彼女の中の「善と悪」が激しくぶつかりある画そのものだったのかもしれない。それを画で見事に表現されている辺りに、ニック・パークの「14年」の経験の反映があるのだろう・・・と思ったのでした。(★★★★)

*1:そういやなんでウォレスの声はジジイお歳を召した方ばかりが演じるのか、と思っていたのだが、オリジナルのピーター・サリスも80越えてるのよね・・・