虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「重力ピエロ」

toshi202009-06-09

監督:森淳一
原作:伊坂幸太郎
脚本:相沢友子


 原作は未読。


 ふうん、と見終わって思いながら劇場を出る。


 なんかね。映画を見ていて、妙に釈然としなかったんですよね。


 例えるとですね。いじめっ子がいましたと。まあ、ジャイアンですよ。ジャイアンの親とボクの親は大変仲が悪く、ジャイアンはボクを特に優先していじめている。そいつが大事なボクの超合金のおもちゃを無理矢理借りたあげく壊して、で、「いらねーから返す」と戻してきた。
 で、数日後、そのジャイアンがお母さんから買ってもらったピカピカの自転車を買ってもらって自慢してきた。で、それを見ていたボクは、兄貴と一緒にそれを夜中にこっそり盗んでドブ川へ捨てた。ジャイアンはお母さんからこっぴどくしかられ、犯人はわからない。それ以来、ジャイアンはすっかり意気消沈。ざまあみろと。でも、そのボクの行いを兄貴は知っていて、親もうすうす感づいていると。


 さて、ボクは、親からどう言われるでしょうか。


 大学院で遺伝子工学を勉強している兄と、落書きを消すバイトを生業としている「らしい」イケメンの弟。仙台市内で起きている謎の連続放火事件が起こり、今、弟が消している落書き(グラフィックアートというらしい)と関連があるらしいことに気付いた二人は、事件について調べ始める。
 というミステリの部分は言わば物語の構成としての援用であり、描くべきは「ある事情」を抱えた兄弟、家族の微妙な空気をどう切り取るか、というところに眼目を置いたことはなるほどな、と思いはした。タッチも演出も俳優の演技も大変に繊細で丁寧で、ファンタジーとミステリの中間を取ったような「雰囲気ミステリ」としては優秀なのはわかる。ただ。


 家族が抱えた「事情」と放火事件は、やがてリンクすることになるわけだが、どうにもこうミステリとして乱暴に過ぎる展開とその顛末はさすがに眉をひそめてしまった。いいの、それ?
 この映画の物語構成は、「結末」があって、如何にして「アリ」にするか、というところから、「引き算」で作られている感じがあり、いわば「犯罪」を犯す側の「感情」に寄り添う形で描いているのだけれど、その物語の落としどころが「そういうところ」でまとめてしまうのは、何かが欠落している感じがするのだよな。


 ミステリには「ほぼ」付きものの「犯罪」と、それをテーマに人間の感情に寄り添う「叙情」を巧く組み合わせるというのは、かなり高度なことなのではないか、と思うのだけれど、それにしても子供が他人の自転車をドブに落とすような「悪いコト」をしたら、親は、そして語り手は、「あいつが先に手を出したんだよう」と言い訳されても「言い訳すんな」と一喝したあげく、ゲンコの一発も喰らわせるべきだろう、とボクは思うのですけど。それが例えどんな「理不尽」であったとしてもさ。(★★★)