虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「エグザイル/絆」

toshi202009-01-02

原題:Exiled 放・逐
監督・製作:ジョニー・トー
脚本:セット・カムイェン、イップ・ティンシン、銀河創作組



 鈴の音が聞こえる。そこは男たちが「還るべき場所」だった。


 返還間近の香港。
 一つの家に集まった男たち。4人。彼らは一人の男を待っている。家の中には女が一人。彼らは二人一組で、別々に現れ、同じ男の所在を聞いた。女は知らないと答える。彼らは家の前で男の帰りを待つことを女に告げて家の前で静かに待っていた。
 やがて男が帰ってくる。その男の「帰還」こそがすべての始まりだった。


 いい。いいね。
 あまりに評判がいいんで、逆にちょっと「上がりすぎた期待に応えてくれるんだろか?」と心配だったけど、全然杞憂でしたわ。ほんとは去年見るべき映画なのはわかってるけど、時間がなかったんだよね。でも去年見てたら、絶対ベスト10入りしているにちげえねえ。と思いましたよ。
 今年最初の映画が、いきなり年間ベスト格の傑作。うん。去年の最初の映画はあえての「恋空」だったわけだから、こういうのもありかな。


 何がいいってね。彼らはヤクザとしての腕は一流なのに、ヤクザとしての職業意識としては半端もんってことなんですね。つまり「非常に人間くさい」ということなんんですよ。ボスとの義理よりも、かつてのダチを大事にする、人情に傾く男たちなんですな。
 男たち4人は、かつてボスを殺そうとしたかつての仲間を殺すように命じられて、その男の家に来る。男たちは彼らの中の「ルール」に乗っ取った流儀で銃撃戦を行ったあと、彼らは肩をたたき合いながら、家を直し、飯をばくばく喰い、肩を組んで写真を撮る。
 ボスに内緒で、彼らは男を逃がす算段を整えようと、裏の稼業をあっせんするホテルのオーナーのところへ行き、彼らは駆け込みの暗殺を請け負うことになるのだが、その現場に組長が現れたことから、彼らの歯車は狂っていく。

 印象的なアクションのつるべ打ちなのだけれど、一番狂ってるのはやっぱり、撃たれた仲間をかつぎこんだ闇医者で、股間を撃たれて駆け込んできた組長とばったり、という邂逅のあとの銃撃戦。銃撃戦の合間もひたすら股間の治療をする闇医者と、その痛みに悶絶しながらばんばん銃を撃つ組長がおかしすぎる。その突き抜けたばかばかしさがありながらも、けっして美しさを失わない銃撃戦は、まさに神業ですね。
 建物のある地形の高低差を生かした銃撃シーンもかっこよすぎるし、とにかくあそこはひとつのクライマックスなんですけど・・・。


 その銃撃戦でひとり男が死に、そこから更なる急展開がある。4人の男たちは結果、「逃避行」の旅に出るのだが・・・。

 厚すぎる「人情」と「偶然」に振り回されながらも、彼らは、ホテルのオーナーから小耳にはさんでいた「金塊」を手に入れることになる。金という希望に彼らは一瞬夢を見る。かたぎになり、幸せな未来を送る自分の姿。
 だが・・・「鈴の音」がふたたび彼らを立ち止まらせる。「人情」に振り回された男たちは、再び「人情」に殉じるために死地へ向かう。


 一人の男が望んだ「還るべき場所」。彼らもそこへ還るのだ。その「場所」を守るために。


 粋に生き、粋に流され、粋に死ぬ。これぞまさに「粋当たりばったり」という、新たな美学の誕生。
 そんな生き方だからこそあり得た偶然が引き寄せる最高のクライマックスを、乾いたユーモアを交えながら男たちの生き様を見つめるジョニー・トー監督の演出が彩る。その美しさに、ただただ深く感嘆したのでありました。大傑作。(★★★★★)