虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ライラの冒険/黄金の羅針盤」

toshi202008-03-01

原題:The Golden Compass
監督・脚本:クリス・ワイツ
原作:フィリップ・プルマン


 第1章なのでこんなもんかな、という感じ。


 うん。気軽に誉めるならば「絵がきれい」というのがまず一点。監督の若さがいい意味でも悪い意味でも出ている作品だと思うんだけど、間違いなくビッグパジェットの企画を任された若者の気合いは感じた。ただ、脚色の面であまりにも言葉足らずな箇所が次々露呈してくるのが、つらいところ。



 一人の少女が、色んな人々の力を借りながら、一人の少年のために北へ向かう、というのは、今年ようやく劇場で見た「雪の女王*1のイメージにも似て非常にそそられるものがあるはずなのだが、全体的に説明不足な感じがする。劇場アニメ版「ブレイブ・ストーリー」や去年の「ワンピース」ほどには、脚色が酷いとは思わないんだけど、ストーリーを展開するのに足りないカットがあまりに多すぎる気がするのだな。困難の解決に必要なカットがかなり歯抜けで抜け落ちている感じがする。とくにコールター夫人の屋敷をいやにあっさり脱出したり、クライマックスで、どうやって援軍があの絶壁の谷を越えたのか説明がないとか、物語の盛り上げる前段をすっとばすくせが、この監督にはあるなあ、という感じがする。

 でも、その説明不足がプラスになることもあって。
 個人的におちぶれたよろい熊ことイオレク・バーニソンに共感しながら見ていたのですが。自分で焚きつけた戦いで足を折られながらも勝利し王に返り咲いたイオレク・バーニソンに、怪我を労ることもせずに「私の足になれ!」といって移動手段にするライラに大変ぞくぞくしましたは鬼畜にしか見えない。おそらくこの間にもう少し、「傷を癒すカット」とかがあるに違いないんだけど、逆にライラのサディスティックな面が強調されている、というアンビバレントな効果を生んでて、ちょっと面白かった。


 あともう一つひっかかたのが、「ダイモン」と呼ばれる存在の描き方だ。この映画のオリジナリティであり、ライラに与えられた黄金の羅針盤とともに世界観の根幹にかなり関わる設定だと思うのだが、このアニマル版の「スタンド」みたいな存在についての定義づけが、かなり曖昧な気がする。ビジュアル化はかなりうまくいってると思うのだが、語り手の中でちょっと描き方にぶれがあるな、と感じたのは、タイモンと「痛み」を共有するという設定でありながら、コールター夫人が自分の猿をぶったたくシーンで、あまり共有してるように見えなかったことや、ダイモンが首を絞められると主人の首も絞まる、みたいな設定なのに、戦闘場面で無防備に「ダイモン」を晒してやられる敵兵士、という間抜けな描写があったりするのはどうなのか、という気もする。
 「ダイモン」のビジュアルの練り込みがもうひとつ足りない感じがするのは、ダイモンという設定に「歴史」や「経験」を感じさせないからで、ダイモンの活用法がもっとあってもよかったな。と思う。


 とはいえ、続編ありきの映画であり、コールター夫人やアスリエル卿の陰影が続編で描かれることを期待して待ちたい。あと足りないカットをすべてぶち込んだ「スペシャル・エクステンデッド・エディション」は絶対出すべきと思う。(★★★)

*1:評価★★★★