虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「奈緒子」

toshi202008-02-24

監督:古厩智之
脚本:古厩智之/長尾洋平/林民夫
原作:坂田信弘/中原裕


 あーこれ昔、原作がビッグコミックスピリッツに載ってたころ読んだことあるなー。とおぼろげな記憶で鑑賞に臨む。


 自分の場合、原作を読んだことがあって映画を見れば、おのずと「ああ、こういう話だったなあ」と思い出すのだが、本作においてはついぞ記憶が呼び起こされることがなかった。その後、しばらくして原作をすこし漫画喫茶で読み返して、原作はですね。メチャクチャ面白いです。ほんとね。コミックスで読んだ方が面白いのかもしれない。
 篠宮奈緒子、というヒロインは元喘息の社長令嬢で、美人。スポーツ万能で成績優秀、だけど性格はどこか陰気、という。「陰気な完璧超人」というなかなかいないタイプのヒロインで。で、療養中に主人公・本田雄介のお父さんを死なせてしまったことを悔いている。彼女の回想という体で、物語が展開する。


 映画ではどうしているか、というと社長令嬢じゃなく普通の家の娘。容姿もそれほどでもなく、だけど、雄介の父を死なせてしまった、というトラウマは残っていて、雄介との再会にとまどいながらも、やがて惹かれていく。。という話なわけですね。結果ですね。
 「陰気な普通の女子高生」というどこが魅力的なのかよくわかんないヒロインが誕生しました。
 上野樹里って基本的に美人だと思うんだけど、若手女優一「美人じゃない娘」を演じるのがうまいもんだから、もう圧倒的に「陰気なただの娘」になってしまっているのが、可笑しいというかなんというか。


 で。
 映画の筋は原作の設定を借りながらもオリジナルの要素が色濃い。基本的には駅伝を通して成長する少年たち(と彼らを時に厳しく時にやさしく見守る鶴瓶)という構図の中展開していく。
 時間の取り方が漫画のように撮れない中で、とにかく主人公雄介役の三浦春馬をはじめ若手俳優たちの体を駅伝選手として画的に通用するまで絞り込ませているので、練習、そしてレースなどの走りのシーンはさすがに見せる。その辺のリアリティは、非常に力強い。ただね、脚本がその画的な強みを生かし切れていない。


 要は「なぜ走らなきゃならない」という問いを各々の選手が疑問を抱えていくという展開になるんだけど、それは結局体に聞くしかないと思うんだよね。体を動かすのって理屈じゃないと思う。そこにある葛藤も、チームメイトの「天才ランナー」である雄介への劣等感も、すべて体の動きの変化が教えてくれるはずなんだ。その変化やこころの叫びを、漫画版のようにト書きで言わせてしまっているんだけど、それはちがうと思う。
 時間に限りがある映画が長編漫画である原作に勝てる要素があるとするなら、それは「動き」だけですべてを伝えられることだと思う。なぜ走らなきゃならないのか。その人間関係もふくめて「言葉にしない」なかで描ける余地があったはずだ、体育会系の人間って特に自分の中にある劣等感や練習の苦しさを口にしないと思うのだ。頭で考えた疑問に応えてくれるのは体しかない。ならば、言葉なんかイラナイダロ。コタエハカラダノナカニアル。
 あそこまで若手俳優に体をつくらせたならば、彼らの肉体だけで、その葛藤すら表現できると信じるべきだった。この映画が、ホンモノの駅伝の感動を凌駕できていないように感じたのは、多分、そこにある。駅伝は言葉を超える言葉のはずだからだ(★★★)