虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「リトル・ミス・サンシャイン」

toshi202007-01-03

原題:Little Miss Sunshine
監督:ジョナサン・デイトン/バレリー・ファリス 脚本:マイケル・アーント


 この映画を新年一発目にこの映画を選んだのは、まあ、たまたまである。理由があるとすればこの映画のジャンルがコメディであったこと、そして「サンシャイン」という言葉がなんとなくめでたさを連想させたから、なんではないかと思う。


 ところがこの映画で描かれるフーバー一家というのが、なんともはやおめでたさとは無縁の「ぶっこわれかけた家族」でありまして。いかがわしい成功哲学を信じて一山当てようとする父、空軍パイロットになるための無言の行と言ってその実人間関係を拒絶した長男、クスリをキメてたために老人ホームをおん出されたマッチョ思想の祖父など、問題児だらけ。個性が強すぎ、相性は最悪。母親はその現状を半ばあきらめ気味に受け入れている、と言う具合。
 そんな中で天真爛漫に育った長女のオリーヴたん*1がこの一家の救い。彼女は美少女コンテストを夢見て、祖父と一緒にダンスを特訓する日々だ。
 そんな一家に二つの出来事が起こる。ひとつは優秀な大学教授だったけど、ゲイの恋人と奨学金の権利をライバル教授に奪われて、教授の職と一緒に人生からおさらばしようとした叔父が、母によって引き取られたこと。そしてオリーヴたんが繰り上がりで予選を勝ち抜き、本選出場が決まったことだった。


 自殺願望のある叔父をおいていくワケにも行かず、みんなで飛行機乗る金もない彼らは黄色いミニバスで一路、会場のカリフォルニアを目指す。


 この映画の面白いところは、実は、この映画が「家族再生」の旅というお定まりの話でありながら、ひたすら家族が見ないふりをしてきた問題点が次々噴出してくる旅であることだ。


 素晴らしい出会いだとか、癒される出来事だとか、そういうことがほぼない。クスリ決めまくってたら老人は命を縮めるし、いかがわしい企画がそう易々と通るわけもなく、どんなに「全米一のプルースト研究者」だと抜かしても今は無職の中年でしかない。あれよあれよと突きつけられる現実、
 さらに、バスも次々と故障箇所が見つかり、みんなで押さないとクラッチが入らない、クラクションは鳴りっぱなし。泣きっ面に蜂、栗、ウスが連続攻撃みたいな状況。


 しかし追い込まれれば追い込まれるほど、家族はつながりを増していく。まるで欠けたバスの部品が、家族の歯車にぴたりとはまったかのように。
 この映画は負け組賛歌というのとはちょっと違う。旅の中で、自らの現実を受け入れ、そこで必死にもがいてこそ、人は輝くのだと、彼らは人として知るのだ。勝った負けたは結果でしかない。勝ち負けがすべてという価値観を向こうに回し、家族という単位そのものが躍動し、死んだはずの人間が少女のダンスの中に、鮮やかに復活するクライマックスに思わず笑い泣き。
 夢を追いかける少女のために家族みんなで連れて行ってあげるはずの旅は、彼ら一人一人の背中を押す旅だった。当たり前のように、すっかり慣れた「押し乗り」でバスに乗り込み、笑顔で家路に着く彼らは、旅に出る前とは違う活力がみなぎり、その力が観客に伝染していく。


 ・・・・今年最初の映画がこんな傑作。いい年になりそうな気がしてきました。(★★★★★)

*1:この娘も5.6年も経ってたらどうなっとるか、と考えると恐ろしいのだが