虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「プレステージ」

toshi202007-06-10

原題:The Prestige
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーランジョナサン・ノーラン
原作:クリストファー・プリースト


 時は19世紀、ところはロンドン。
 その時代、二人の偉大なる奇術師がおったそうな。一人は「偉大なるダントン」。一人は「教授」。若き時分にはともにステージを学び合った中だったが、一人の女性の不慮の死をきっかけに袂を分かち、やがて因縁の間柄となっていったそうな。そんな彼らの因縁の顛末とはいかに!てけてん。


 俺は手品というのが苦手で。やる方ですけれども。そんなこと言ったらなんでもかんでも苦手なんですけれども。見ていても、なんもわからんのですよ。基本的にタネが。タネがわからんと気になるじゃござんせんか。だから食い入るように見ちゃう。手品師にとって私ほど都合のいい客はおりませんな。


 この映画は手品師の話なわけですけれども。手品というものは大技小技合わせて19世紀終わりごろには大概のもネタはやり尽くされているそうでありますな。お客様の近くで行うコインやカードなんかを使ったテーブルマジックから、なんやかんやの大技まで。空中浮遊、壁抜け、瞬間移動。大脱出。それらはもうすでにやりつくされたなかから現代的な味付けを施しながら見せているのが、現在隆盛を誇るマジック、というもの、なんでしょう。
 ところがこの映画はどんどんどんどんタネ明かしてくれるんですな。つまり見せて驚かせて種明かし、という形ですわね。19世紀が舞台であり、マジックがまだ発展途上の、うんうん頭をひねらせながら、タネを考えていた時代でありますよ。
 物語の基本がミステリーだから、大技を見せたあと、その仕掛けを見せてくれる。人間だから基本的に、奇蹟を見せるにはトリックがあり、そのタネをプロデュースする人と、それを美事に見せきる人の二人三脚が、奇術師たちの基本、ということなんでしょう。しかし、それを覆す天才が現れる。なんでも彼は一人で、すべてをこなしてしまう、天才肌の男だった!それが「教授」であったわけです。
 しかし、彼にはだれにも言えぬ秘密があったのです・・・・。とまあ、こんな感じの話です。


 しかし。奇術師というものは人生までもが奇術、ということなのでございましょう。この映画の主人公である二人は、生活までもが手品における「伏線」を張るわけです。手品は三段階「確認」「展開」「偉業」という3段階があるそうですが、最初の「確認」はステージ上ではなく、生き方そのものが「確認」なのであるよ、と映画は説くわけであります。
 さて、このタネがあなたに見破れますかな?という話なんですが、あたくし手品は苦手でもミステリーは大好きでございますから、時折偉大なるマギー先生のごとく、ちらちらタネのヒントをいくつか見ただけでピンときてしまいまして。だから、この映画の目論見としては「確認」(前振り)「展開」(本題)「偉業」(オチ)となるはずが、あたくしには「確認」「展開」「確認」・・・になってしまい、多少がっかりでございましたが。ノーラン監督は頭のいい監督ではございますが、見せ方にもうひとつ華、というか外連があれば傑作だったかもしれないですな。「教授」にはなれても、「偉大なるノーラン」への道は厳しいのであります。
 映画と人生は、手品のようには参りません、というのがこの映画の教訓でございましょうか。


 でまあ、例によってノーラン監督との約束、というやつでオチをいうわけにはまいりませんが、最後に一言。

 「奇術師」だけに、最後はもうひとつの「種」が勝負の分かれ目なのです。お後が下品なようで。(★★★)