虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「風雲児たち 幕末編」10巻

toshi202007-01-02

作:みなもと太郎


 2004年の秋口からハマり始めたにわかファンの私も、ファンを始めて2年以上経過しまして、それ以来欠かしていない、幕末編コミックス感想。今年も出来る限り追いかけます。


 今巻では安政の大地震の続き、吉田寅次郎がついに松陰を名乗り、松下村塾を開設。村田蔵六福沢諭吉の邂逅。同窓生の看病をしていた諭吉が腸チフスで倒れる。蔵六は江戸で鳩居堂を開設。幕府が「講武所」開設。そして、ペリーに代わってハリス(&ヒュースケン)登場、ほか、二宮敬作が脳出血で倒れるなど、めまぐるしい。


 その中で、ワイド版以来から続くドラマに決着が着いたのが2件。まずは安政の大地震で、吉原の元締めが火災が起きたにも関わらず遊女の逃亡を恐れて大門を締めて見殺しにした件(犠牲者1000人以上)。ここで、一人の少女が死ぬ。
 彼女はおモトといい、蘭学者高野長英の娘だったが、脱獄犯として追われていた高野長英が縛吏に取り囲まれて撲殺された際、長英の妻の弟が、長英の妻子の引受人となったのだが、そいつがとんでもないゴロツキで、妻と幼い息子は行方知れず。娘のおモトは11歳で遊女屋に売り飛ばされた(彼女だけ記録があったそうな)。彼女はこの震災で16年?の悲惨な生涯を閉じる。


 そして林子平の「海国兵談」が解禁に。彼が身命を賭して海防の重要性を訴えた書であるが、松平定信に目を付けられ、彼のもうひとつの著作「三国通覧図説」ともども長く発禁となっていた書である。


 で。
 この巻で重要なトピックは安政の二度の天災である。地震、そして台風。これとハリスが下田に領事館を建てた時分がピタリとあてはまってしまったことが、不幸であった。これを機に、開国へと向かっていたはずの日本の世論に攘夷論が一気に浸透していくことになる。アメリカ人にしてみたらいちゃもん以外の何物でもないが、当時の人間はそうは考えない。自らに起こった理不尽と、見慣れぬ民族の上陸を、結びつけてしまうのである。
 この巻で奇しくもオランダ商館長が幕府に苦言を呈した「キリシタン弾圧」がこの巻の終わりには、各地で復活し、百人以上の犠牲者を出すことになる。


 こういう頑迷な排他思考と、おモトの悲惨な境遇の遠因は、根っこは同じなのであるから、なんともやりきれない気持ちになる。風雲児たちの戦いは、こういう頑迷固陋な思想との戦いでもあるのだが・・・歴史が映し出す現実は時に残酷すぎる。