虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ラスベガスをぶっつぶせ」

toshi202008-05-29

原題:21
監督:ロバート・ルケティック
脚本:ペーター・ステインフェルド/アラン・ローフ
原作:ベン・メズリック


 あの日のぼくには「経験」が足りなかった。圧倒的に「非凡な経験」が。
 MITに所属し、そこでの成績は常にトップクラス、だが常にトップでいるために払った代償は、「人生経験の欠如」だった。つるんでいるのは「優秀ではあるけれど、基本的にはぼんくら」で、ささやかなロボット大会に情熱を傾けるのがせいぜいの連中。そんな21歳の青春。そして、すべてを犠牲にして手に入れようとした医学の道。ハーバード医科大に合格し、優秀な医者になるという「未来」を手に入れるには、奨学金を獲得するしかない。だが、それを獲得する決め手となる「人生経験」がない。
 「金」。そして「経験」が要る。この煤けた青春から脱出し、、自分が払ってきた代償に見合う「未来」を掴むためには・・・。


 そんな若者に、手を差し伸べたのは、MITの教授率いるとある「研究会」のメンバーだった。彼らの研究対象。それは、「ブラックジャック」だった。


 「21」に賭ける青春映画である。
 カードカウンティングという手法によってラスベガスのカジノを荒らした学生たちの実話(主人公のモデルはアジア系らしいが)を元に脚色しているわけだが、この映画がお見事なのは、その実話を叩き台にしながら、ドラマにきちんと振れ幅を持たせているところ。優秀だけど、冴えない。目指す目標はあるが、それは経済的苦境という現実に足を取られ前に進めない。
 そういう主人公を取り巻く状況をきちんと描きつつ、そういう主人公をこそ必要とする人々と出会い、みるみる頭角を現す、という話の流れ。灰色だった現実は、ラスベガス、ついこの間までの自分からはは想像もつかない大金、それを派手に使うことで得られる快楽、憧れの女生徒との「仕事」、自分の才能が「大量の札束」となって還元される悦びなどによって、鮮やかに色づいていく。めくるめく「非日常」な生活が、彼の心に慢心を生み、今までの「仲間」たちとの友情の崩壊、やがて仲間内でも人間関係に亀裂が走る。そして、彼らに迫る絶体絶命の危機、というドラマをスピーディに展開させる。
 現実からファンタジーへ。そしてファンタジーから現実へ。その「切り替え」の仕方が非常に巧みで、ぐいぐい引き込まれる。


 なぜ主人公をアジア人から白人にしたのか、という揶揄が飛ぶ映画なのだが、ジム・スタージェスの演技は、真面目だけど冴えない優等生が、日常と非日常、現実と非現実に翻弄される若者を巧みに演じきり、そういう疑問を吹き飛ばす。
 そして、最大の理解者だったはずがやがて下卑た本性を露わにする教授を、ケビン・スペイシーが楽しそうに演じていて、あまりに楽しそうなので、こちらの顔も思わず綻ぶ。そして、その教授もまた、ドラマを持っている。かつて因縁を持つ人間との対峙を余儀なくされる、という流れは、物語の厚みを増す意味で非常に面白い。


 騙し、騙され、夢に人生を翻弄される青春を巧みに描き、思わず膝を打つオチまで鮮やかに決まり、一気呵成の2時間を約束するジェットコースター的青春映画の秀作である。(★★★★)