虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「セレニティ」(DVD/劇場未公開)

toshi202006-09-17

原題:Serenity
監督: ジョス・ウェドン



 10話ほどで打ち切られながらも、アメリカでじわじわと人気を獲得したSFテレビドラマ『Firefly』の映画化だそうである。
 500年後の未来。非合法っぽい運び屋をやっている「セレニティ号」の面々が8ヶ月ほどまえにワケあり美少女(コブつき)を拾っちゃってさァ大変、という話。犬猫みたいに人間拾っちゃダメ絶対!という<違うと思う。


 SFXは健闘していると思うのだが、全体的な演出はドラマの延長線という風情。それはともかくも、そもそも、物語の立て方がまずまずい。【いきなり幼い少女が陰謀に巻き込まれて、体いじられてる】ところから始まるのだ。この話。で、【兄貴が助け出して、彼らを追う人間が現れて】、ってご丁寧に展開させるんだが。いきなり丁寧にネタ割る奴があるか!そんなもん、あとから回想やらフラッシュバックで適当につけたせよ。*1
 で、いきなりネタを割る話を振っておいて、出会いも省略して、彼らが乗り込んでから8ヶ月後の話になっているのだ。なんでそういう物語の入り口となるべき場面を省略するわけ?いつの間にやらやっかいな人たちがセレニティ号に乗り込んでいてさあ大変、みたいな話になるんだが、セレニティ号の面々の日常とかキャラクターをまったく把握させずに物語が進むんで、物語の求心力が本来あるべき力の3割くらいしかない。
 本来ならばきちんと主人公格の船長マルのドラマをきちんと掘り下げるのが常道のはずだ。それこそ、序盤のネタバレ展開を捨てて、そちらに回すべきだった。そうしないと彼の持つ決断の非情さや人間関係に持つ屈折が唐突に見えてしまう。そのうえで、ナゾの美少女に振り回されて命がけの冒険をせにゃあならない男の悲哀や、逃げ続けてきた自分が何かのために命を懸ける、という展開にカタルシスが出ようものだが、ドラマにタメがなくかなりおざなりに提示されるので、いまひとつ共有できないのが残念だ。


 で、この映画の世界では「リーヴァーズ」というレイプや殺戮を好んで行う食人部族が存在していて、彼らは「人間」である「同盟」と敵対関係にある。その彼らが「生まれた理由」というのが、少女と彼らが「同盟」の秘密組織に追われる理由という奴なんだけど、かなり大味で笑ってしまった。いくらなんでも、一千万単位の一般市民にそんなことするのか?さすがに破天荒すぎるだろ、それ。
 つーか、この真実をもみ消したいがために同盟が秘密組織を使って虐殺まで行うにはあまりにおおざっぱすぎる真相じゃないのか。


 ゾンビ、美少女、カンフー、スペースオペラ、と美味しい要素をうまい具合に詰め込みながら展開させるあたりに志を感じるし、得難いものがあるとは思う。ただ、ドラマ部分や世界観のツメがいまひとつ。決して方向性は間違ってはいない。だが、煮詰めればもっと面白くなったはずなのに。もったいない作品である。(★★☆)

*1:ネタバレしたくない人はチャプターセレクトで3番を選択しよう(笑)。