虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「花よりもなほ」

toshi202006-06-07

監督・脚本・原案・編集:是枝裕和


 「風さそふ/花よりもなほ/我はまた/春の名残を/いかにとかせむ」


 桜散る。と言う言葉に日本人って弱いよね。なんなんだろね、とはいつも思ってたんだけど。やっぱ忠臣蔵って日本人にとってのトラウマなのだよなー、と思う。この美談が、仇討ちという陰惨かつ救われない制度を庶民に浸透させ、後に特攻が「国から押しつけられたんではなく、俺らの意志で死にに行ったんだい」という娯楽映画の「思い込み」の下地になっている気がする。大事な物のためならば死んでしまえ。ああ、君は星の涙を見る。レッツ自己犠牲。
 そんな美談の成立前夜。もっと日本人っておおらかだったんじゃね?という趣旨の、人情時代劇である。


 完成されたリアリズム演出で観客を瞠目させた「誰も知らない」からは想像もつかない説明過多でご都合主義、どこかファンタジーめいた長屋風景のなかで今の日本映画に圧倒的に足りない人情喜劇を復活させようという是枝監督の志は買うし、復讐なんて笑い飛ばせ、という「9.11」以降の映画としても、なかなか面白いことやってるとは思うんだけど、はっきり言えば、娯楽映画としての振れ幅が足りない。どうも頭(脚本)で考える面白さに体(映画)が付いてきてない。


 脚本上ではもっと笑える話のはずなのだ。いや、笑えないとこの映画成り立たないはずだ。


 役者だって、喜劇役者としてかなりいい素材を使っている*1し、セットや世界観の完成度も高い。まったく面白くないわけでもないのだが、どこか、堅い。劇場でみていても、観客からどっと笑いが起きないのだ。どーも是枝監督の演出生理は虚構にまかせて観客を押し倒すくらいの勢いが出せない感じ。「復讐なんてどーでもいいじゃん」といういい意味でのアバウトさが出せていないと思う。娯楽映画作家としては「修行が足らない」というしかない。


 とはいえ、序盤・中盤のにぎやかだけど踏み込みが足りない展開にのっぺりと見ていると、後半から「赤穂四十七士」余話として展開する段になると物語として大分挽回するのだが、もっと面白くなったはずなのに・・・・という感が否めなかった。

 出来次第では今年を代表する娯楽時代劇になり得たとも思うので、もったいない、の一語である。(★★★)

*1:木村祐一が特にいい