虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ブロークン・フラワーズ」

toshi202006-05-04

原題:Broken Flowers
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
公式サイト:http://www.brokenflowers.jp/


 出来ちゃった結婚。というのがある。「生理、こないの」みたいな告白をされて、責任の取り方として結婚したり責任の取らない方として堕ろさせたりという。


 その男は盛りを過ぎた、女たらし。かつては四股、五股は当たり前のブイブイ言わせた時代もあったが、それも今は昔。結婚は人生の墓場というが、結婚しないというのは、その墓すらないわけで、まあ、野ざらしってやつですか。出来ちゃっただろうがなんだろうが責任取れりゃ良かったんだろうが、その機会も逸して老境にさしかかり、だからと言っていまさら家族を持っていいパパを演じる気もない。まあ、そういう男である。
 恋人が出ていく。それでも男は黙って部屋でDVDを見る。黄昏れた人生を黄昏れたスタイルで。そんな男に、一通のピンク色の封書が届く。差出人不明のその封書の中に書かれていたのは要約すればこうである。


「出来ちゃってたの。20年前に。」


 俺に19歳の息子がいる。その内容を見て気にはなるものの、差出人を調べるための一歩が踏み出せない。だが、その封書の内容を知ったおせっかいな隣人が、旅の段取りをすべて整えてくれてしまった。目指すは20年前に付き合っていたかつての恋人たち5人。一人は故人だが。
 こうして男は(しぶしぶ)自らの来し方を振り返る旅へと出かけるのだった。ピンクの花を目印に。


 この映画の肝。それは言ってみれば、モテモテ親父の自虐である。どれだけ女にもてても、甲斐性のない男は所詮哀しいものなのですよアッハッハー、という。若いもんよ、油断するな。女をなめるとこうなるぞ、という。まあ、こういう男は歳をとってもイケメンなはずですが、なぜか演じるはビル・マーレイ、という時点で、この映画の方向性は笑いに向かっているのは明白である。
 突然のかつての恋人の訪問に、女性たちは驚きとともに、年齢による現実による気まずさが、空気をぎこちないものにしていく。ま、本音を言えば訪ねる男の方は男の方で気まずいのはわかってる。それでも、来し方をみて、もしも、自分に、甲斐性を示せるかもしれない。その「可能性」という希望につられるかのように、かつての恋人との再会の旅を続ける。


 いやーかっこいい。ジャームッシュかっこいい。自己陶酔*1する自分をさらに笑いに転化してそこに哀しみを浮かび上がらせる、大人の余裕。こういう大人になりものやね。と自己陶酔しながら見ていたんだけど、ふと自らの足下をみてみれば(20年後に)ピンクの封筒が可能性は限りなくゼロに近い我が人生。
 ピンクの封筒の先にある悲哀を噛みしめられる権利は、実はモテるものモテざるものの境界線で分かたれる。・・・可能性を上げられるよう、頑張れ、と言われてるような。うー、頑張ります。 (★★★)

*1:五股かけた女たち+αがそろって豪華キャストかついい女、って部分がナルシスティック