「映画クレヨンしんちゃん 踊れ!アミーゴ」
「映画クレヨンしんちゃん」シリーズから、天才・原恵一監督が降板してから早4作目*1、である。
映画興行はここのところ好調な本シリーズであるが、映画ファンからの絶大な信頼は徐々に揺らぎつつある。それを憂慮したかは知らないが、本作では第1作「アクション仮面VSハイグレ魔王」の脚本に参加したもとひら了が脚本を担当。それをムトウユージ監督が演出する、という分業体制とし、久しぶりに本格的に映画ファン層を視野に入れた作品となっている。
さて、本作では原恵一監督の作劇に準拠している。「サンバ」、というキーワード。そして春日部市の住民がいつの間にか周りの人がそっくりな別人になっている、というSFスリラーという要素。言わば、温泉というキーワードと怪獣映画を見事に融和させてファンを感動させた傑作「温泉わくわく大決戦」のような形を模索しようとする意志を示している。その点は非常に好感がもてる。おそらく踊らされる人々、とそうでない人々、というシャレだろうが、そういう直感は大切だ。
ただ、本作に限っていえば、その融和が巧く言っていない。
序盤のダークな色を全開にするのはいいのだが、そこを中和するはずの「踊る」要素が(キーワードとしては出てくるのだが)ほぼ皆無なのだ。シリーズ一ホラー要素の高い「ヘンダーランドの大冒険」は徐々に闇が日常を浸食する恐怖を描いてはいたが、あれはあくまで野原一家をねらい打ちにしたもので、本作では春日部市の人間全体を入れ替えて拉致監禁という、かなり悪意の高い壮大な企みである。
ところがそこにリアリティがまるで付与できていない。原恵一はその辺のリアリティをするっとクリアしてしまうのでわかりづらいが、本作ではその点がまるでクリアできていない。こういう実効性が乏しい企みをなぜ行うのか、というところまで考えが及ばず、目先の「入れ替わってる恐怖」だけを提出して物語を煽る。だから、実はあまり怖くなかったりする。
で、肝心の物語の真相は・・・がっくし。かなりアレだ。つーかここ最近のクレしんから傑作が生まれないのは、この辺のセンスのなさだと思う。
ここでSFスリラー要素から荒唐無稽な「サンバ」要素が顔を出す。つーか、完全に誤魔化しに入ってきている。これでは意味がない。露出度の高いオネーサンの延々踊りまくったりするシーンで、笑って許して、というわけである。
まったく、あきれてものが言えないね。今度だけだぞ<折れるな。
ま、それはともかくとしても、シリーズが映画として回帰する意志を示したことは非常に意義のあることである。懲りずにまた、今度のコンビで傑作をものにしてみせて欲しいと思う。その期待も込めての★3つということで。(★★★)
*1:一部、絵コンテ参加はあり。