虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「スカイフォール」

toshi202012-12-11

原題:Skyfall
監督:サム・メンデス
脚本:ジョン・ローガン/ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド
原作 イアン・フレミング



 ダニエル・クレイグ版ボンド、第3作である。


 さて、関係ない話から入る。
 ボクは泊まり込みで仕事をするため会社で仮眠をとります。その仮眠明け、おなかが空いたので仕事の前に食堂前の休憩室で、売店で買ったパンを食べに行ったときに、別部署のちょっとおえらい方と一緒になりました。一応社内で「こいつはなんか、映画のブログをやってるらしい。」というのは社報の趣味のコーナーで伝わっていましたので(ブログのアドレスは書かなかったけど)、「最近おすすめないの?」などという、まあたわいない日常会話が始まったので「007」の新作を薦めていました。(この時点で3回くらい見ている。)
 ところが、「007(ダブルオーセブン)」から急に「(サイボーグ)009」の話に変わりました。先日公開された神山健治監督の「009 RE:CYBOROG」の話になっていたのです。その方は「サイボーグ009」が昔から大好きで、すでに2回見ているそうなのですが、周りに「009〜」を見に行ってる人がいなかったらしく、誰かに話したくて仕方なかったようで、かなり突っ込んだ話になりました。



 ボクは「009 RE:CYBOROG」を見ていますけど、感想がうまくまとまらなかったので、ちょっと置いていた作品だったんですが、その後色々裏話などを耳にする機会があって「そういう経緯の作品だったのか。」とはたと気づいた作品で色々思うところはありました。
 「009 RE:CYBOROG」は元々、神山健治監督が、押井守が監督することを前提に書いた脚本で作られていて、その中での目論見は「自分たちの形で「古典」になったサイボーグ009を語り直す。」という試みだと思っています。そのために未完である「天使編」と向き合い、それを語りきることで、「サイボーグ009」のメンバーが現代の地球に再結集する、という物語を作り上げた。
 キャッチコピーの「終わらせなければ始まらない。」というのは、まさに「そのまんま」な作品だとも言えます。
 ただ、原作者すら持てあましたテーマを取り上げ、なおかつそこに神山健治監督の押井守愛を詰め込んで、さらには「サイボーグ009」を現代に復活させる話を90分足らずの脚本に押しこんだため、かなりいびつな作品になったことは否めないと思うわけですが。さて。



 話を「スカイフォール」に戻します。
 本作に対する前評判の中で、否定的な意見をたまに見ていて、それが「007」にしては「人間的」すぎる、という「昔ながらの007ファン」としての意見があって、見る前は「ああ、そういう作品なのか。」と思いながら見に行ったんだけれども。
 見終わった後に思ったのは、あまりに鮮やかな、鮮やかな「ジェームズ・ボンド」の帰還である。


 そもそもダニエル・クレイグ版の第一作「カジノロワイヤル」が異色だった。

 いやあ、楽しかった。正直007って、どこかルーティンな感じがして、熱心に見ようと言う気になれないシリーズだったんだけど、これは楽しかった。いや、ダニエル・クレイグ主演っていう時点で、ある意味期待通りか。

 だって今回のジェームス・ボンド・・・こいつ基本ヤクザですよ!チンピラチンピラ!紳士服着たチンピラですよ。相手が弱者じゃなくて犯罪者ってだけで。殺しの番号を手に入れるための最初の殺しが、トイレでボコボコにした末に、水を溜めた洗面槽に顔突っ込ませて溺死させる、という、超泥臭い殺し方するし、基本的にイキがってるチンピラですよ。Mの家を探り当てて、「俺ってどうよ」と力を見せびらかすガキっぷりも披露して、Mをあきれさせる、というくらいの男ですよ。
泣いてチンピラ - 虚馬ダイアリー

 そも、「水戸黄門」で有名な水戸光圀公も別にはじめからあんな訳知り顔の人格者じゃなくて、かなりやんちゃな過去を持った人物で、若い頃は徒党を組んで江戸へ辻斬りに出かけていたなどという、無軌道なおぼっちゃまだった時代があります。
 水戸光圀公でそれである。ましてやジェームズ・ボンドである。やんちゃな過去のひとつやふたつあるはずである。


 ダニエル・クレイグ版ボンドの魅力はその完成しきれないボンド像にあると言ってもいい。前2作には007シリーズのファンには、色々足りない要素がある作品である。しかし、本作では、いよいよ人間的なクレイグ版ボンドが本来の「ジェームズ・ボンド」へと向かう通過儀礼が行われる。
 母たるM(ジュディ・デンチ)の過去、自身のトラウマ、体力の衰え、さらにはMI-6の「死して屍拾う者なし」な掟が生み出した怪物との対峙。


 今までのダニエル版ボンドの「カジノ・ロワイヤル」「慰めの報酬」は「過去」の話だったが、今回の話は「現在」のボンドの話。インターネットのハッキング、コンピューターウイルスによるシステム乗っ取りなど、ITを効果的に使った非常に「イマ的」なテロ行為よってMI-6は危機に陥る。
 Mは清濁併せ持った存在である。彼女が生み出した子供が二人いる。「新しい技術にもすぐに適応できる、優秀で従順で、「母」を深く愛しているが、優秀さゆえの奢りもある男」と「「母」に反抗的で出来はよくない、古い物しか愛せないような適応力に乏しい、落第点だらけの元チンピラ」の2人だ。


 しかし、彼女に残ったのはどちらだったのか。


 この映画で、あらゆる「過去」と対峙したボンドは、やがて一つの終着点へと導かれる。あまりに人間すぎると評されるダニエル版ボンド。しかし、だからこそ、この映画の結末はぐっと胸に迫る。
 やがて彼の元に、シリーズ必須の「要素」が集う。
 「終わらせなければ始まらない」007。人間・ダニエル・クレイグを依り代に、「古典」は鮮やかに「現代のアイコン」として復活を遂げるのである。傑作である。(★★★★★)




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