虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「X-MEN/ファイナル・ディシジョン」

toshi202006-09-11

原題:X-Men: The Last Stand
監督:ブレット・ラトナー 脚本:ザック・ペン、サイモン・キンバーグ
公式サイト:http://www.x-menfinal.jp/



 まずはブレット・ラトナーおつかれさん。相変わらずの便利屋監督っぷり。アンタは映画界の「コミック・マスターJ」だ。そして、グッジョブ、である。


 本作は言ってみれば20世紀FOXとブライアン・シンガーとキャスト陣の関係のこじれと、そこから生まれた政治的打算の産物のはずだった。「X-MEN2」は作品的には成功したものの、シンガーとハル・ベリーに溝が生まれたことによって、20世紀FOXはシンガーをワーナーの「超男の帰還」に寝取られてしまう。
 「2」において、「3」で完結することが暗示されていたし、豪華キャストが集うシリーズでもある。なにより、メインとなるキャラにはお年を召した方々もいるので、あまり時間を置けない。そんな製作側の事情を無視しやがったシンガーを切って、20世紀FOXブレット・ラトナーに委託した。それはやむにやまれぬ、選択であったが、結果は良好。
 ラトナーが引き受けることによってまさに「嵐(ストーム)」の中心であったハル・ベリーも契約を結び、豪華キャストもほぼ温存、スタッフもシンガーについていかなかった残留組が見事に仕事をやってのけ、まさに最終作としては申し分ない仕上がりとなった。


 「選択によって作品はつくられ、選択によって作品は滅ぶかもしれない」状況だったのである。


 そもそもブレット・ラトナーに作家的気質がない。
 自らが描くべきものに執着しないが、それゆえに特筆すべき作家性やオリジナリティがない。いわゆる「手先がウリ」タイプの監督、というのが俺の認識だ。ただ、この人にはそれ故に、描くべきものさえ与えられれば。そこにきちんとあわせていこうとするだけの「素直さ」と、対応できるだけの「適応力」がある。
「ラッシュ・アワー」の成功も、言ってみればジャッキー・チェンの俺様流にきちんと対応できるだけの度量と素直さ、そして演出の吸収力があったからだ。そして、本作において彼が成功したのは彼が、ブライアン・シンガーが紡いできたシリーズを引き受けうる度量があればこそ、である。


 今回の脚本には「X-MEN2」において原案を担当したザック・ペン*1が参加。「ミュータント能力」を治す特効薬「キュア」が現れたことによって、ミュータントたちに投げかけられた波紋の行方を追っていく。
 「X-MEN」を映画化するにあたって一番難儀なのは強すぎる力を持つものたちを如何にしてコントロールして、能力の力押し対決になることなく超能力大戦を描いていくか、という命題なんだけど、かなり大胆な方法でかっさばいていく。圧倒的な攻撃力を誇る「リーダー」ことサイクロップス、「2」で強大すぎる力でミュータントや人類を滅ぼしかけたプロフェッサーX、「2」で使えすぎることが判明したミスティークなどを次々と、上手い具合に戦力外に追い込みながら、最後の決戦の「カード」を切りそろえていく、
 その上で、それぞれのキャラクターの心情にきちんと寄り添いながら、それぞれの決断を逐次描いていく。見事な脚本である。特に「ローグ」にその道を選ばせたのは賢明だと思った。彼女の能力は「能力=疾患」の最たるのであった気もするし、彼女がそれを選択することによって脚本により深みが出たと思う*2ウルヴァリンが彼女の選択を止めずに「俺たちはそれでも友達だ」と言い切ったのは感動的ですらある。
 あと、善悪二元論で行動するパイロの「あんたの命令ならプロフェッサーだって殺した」というセリフに対して、マグニートが思わずプロフェッサーをかばってしまう場面も涙が出そうになった。ストームの弔いの言葉よりも、このじいさんがプロフェッサーへの敬意を口にするほうが泣ける・・・。選択したことにより、失ったものをこのじいさんもまた抱えているのである。


 それぞれの思いを抱えながらクライマックスに突入する。人類VSブラザーフッドVS X-MENの三つ巴の決戦を一気呵成に描いていく辺りの巧さも特筆ものだ。能力には対能力武器、能力にはそれに見合った能力、という描き方をきちんとやっているので、力押しだけの展開には決してならないのが素晴らしい。きちんと異能力大戦としての体裁を守りつつ、最後のジーンとウルヴァリンの対峙も、それぞれの能力を生かしたものであることに感心すること仕切りであった。
 これだけの内容を1時間44分にきちんとまとめきった、異能力決戦映画の秀作!きちんと、ブライアン・シンガーのケツを持ちながら、ここまでの作品に仕上げたブレット・ラトナーに敬意を表する次第である。(★★★★)

*1:個人的に傑作の「サスペクト・ゼロ」もこの人の脚本。迷作「エレクトラ」もあるけどw。

*2:アイスマン、ローグ、パイロといった「1」からの若手3人組が残留、離脱、敵対、という風に道が分かたれたのもいい。