虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ブロークバック・マウンテン」

toshi202006-03-22

原題:Brokeback Mountain
監督:アン・リー 脚本:テリー・マクマートリー、ダイアナ・オサナ
公式サイト:http://www.wisepolicy.com/brokebackmountain/


 切ない話が好き。と言う人にはお勧めである。かくいう俺も、切ない話だとは思った。

 思ったんだが、これが傑作か、と言われると・・・ちょっと歯切れが悪くなる。完成度は高い。それは認める。でもね・。なんか、なーんか、うまく丸め込まれた感があるんだよなー。


 この映画は、カウボーイをしている間にデキちゃったイニスとジャックという男2人が、別れ、それぞれに家庭を持ち、子供を為しながらも、再会し、イケないと知りながらも逢瀬を重ねる、って映画なんですがね。あっさり言ってしまえば。彼らの出会いから、20年という時間を重ねていっても、変わらぬ永遠の愛を描いた、涙涙の物語。
 ・・・なんだけど。困ったな。この原作ってさ、書いたの女性なんだよね。それをアン・リーが美しい映像と端正な演出で、見事に完成度の高い映画として成立させてる。その完成度の高さは認めるんだが、ホモの恋愛ってもっとドロドロしてない?女性が描いたからなんだと思うんだけど、なんかね、すっげーさわやかなんだよ。描き方が。物語自体は骨太で苦い話なんだが、そこにある種同性愛への憧憬が混じってる感じなんだよね。
 例えると、苦いんだけどすっきり雑味がない良質なコーヒーみたいな話で、こういうインモラルな恋愛って泥水すすってナンボ、ってイメージがあるおれからすると、なにかが違う気がする。もっとこうどろっとしてる方がリアルって感じがする。


 ブロークバック山にある美しいものを守るために人生を狂わされていく男たち、みたいな話にしちゃってるけど、こいつら言っちゃ悪いが、ホモな上に不倫じゃねーか。それがまるで、家庭を持ったことが不倫みたいな詐術によって、美しい話みたいになってるけど、俺なんか「んなわけねーじゃん」とか思う。


 俺が気になったシーンで、このイニスとジャックが数年ぶりに再会する場面があるんだけど、こいつら自宅の前なのにいきなり抱き合ってディープキスし始めて、それを家の中からイニスの奥さん(ミシェル・ウィリアムズ、彼女がすばらしい)に見られちゃう。そんなこととはつゆ知らず、家の中に二人で入ってきて「つり仲間のジャックだよん」といけしゃあしゃあと紹介したあげく、「つもる話もあるから出かける、今夜は帰らない」とか言う。しかもコトを行って帰ってきたら今度は「2日ほど釣りに行ってくる」ってしらじらしく出かけやがんの。「こいつひっでえー」と思ったよ。


 この映画で描こうとしたものが、恋愛をするものが抱えた原罪の物語、とこの作品を肯定する意見も頭では理解できるんだが、じゃあ、これがノーマルの恋愛と同じレベルの話として成立するか?というと違うんじゃないかと思う。背徳の関係にしてはこの二人、あまりにも無邪気過ぎる。
 不倫でホモはまだしも、無邪気、ってのはまずい。最悪の組み合わせと思う。おれ、二人の奥さんに同情したよ。つーか、よく刺されなかったよな*1。刺されて終わり、ってエンドもあり得たと思う(上映時間1時間くらいになっちゃうけどw)。


 とはいえ、こういう作品、と割り切って見るぶんには、酔える。十分酔える。特にヒース・レジャーは、純なるものを守ろうとして人生が狂っていく苦みを体現していてすばらしい。美しく、痛切。だけど、世の中そんなに美しく生きられないよね・・・と思ったりしちゃ楽しめない。やおい系純愛映画の秀作、と言えようか。(★★★★)

*1:ミシェル・ウィリアムズが演じる奥さんが二人の関係を認識するたび、物言わぬ彼女から「刺すわよ」オーラが感じられるシーンがそこかしこにあって、「うわこの女優すげえ」と思った。