虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「殺人狂時代」(1967年製作)★★★★


「私はヒットラーを見て感動した。あれほど魅力的な「きちがい」を見たことがない。あれこそが人間の姿だ。」


 公開1週間前にオクラ入りが決定し、半年後公開されてもあっという間に打ち切られ、当時の批評家の評価も散々ながら、なぜか上映されるたびに人気が出てくる、喜八監督最強のカルト・ムービー。


 いきなり登場するのが天本英世演じる精神病棟を仕切る謎のおっさんと、たどたどしい日本語を話すドイツ人の軍人ぽい格好をした男性である。狂人ばかりがいる牢が並んだ廊下を突っ切ると、そこには白塗りの部屋が。そこは完全防音で秘密の会話が出来る云々言う。
 謎のおっさんの正体は「きちがい」を好む男。かれは「人口調節会」という組織を主宰し、増えすぎた人口を抑制するだのなんだのいう理由で日々殺しに励んでいる。そのために彼は、殺し屋を子飼いにしている。秘密の部屋で日本語より流ちょうなドイツ語で会話じはじめる2人。ドイツ人の依頼は、電話帳から無作為に選んだ3人を期限以内に殺せ、というものだった。


 3人うちの2人はあっさりと殺し屋たちの手にかかり、死んだ。そして残るは犯罪心理学で大学の教鞭を執るさえない男・桔梗信治のみであった。ビン底眼鏡でマザコンで6畳一間の貧乏暮らし。おおよそ楽な相手と思われたが、最初に彼に近づき殺そうとした殺し屋は、偶然が重なって死んでしまう。
 ひょんなことから知り合いになった自称・新聞記者の美女と、小悪党のビルを仲間にした桔梗は「調節会」から次々と送られてくる殺し屋を相手にする羽目になるのだが・・・。


 映画は総合芸術である。・・・とする映画批評家たちからみれば、おおよそクダラナイ類の映画である。つーか、総合芸術という方向性からは完全に真逆に爆走している。徹底された戯画化、ありえない登場人物たち、リアリティーとはおおよそ無縁な殺し合い。そしてヒットラーだ殺しがなんだと社会風刺っぽいエレメントを組み合わせながら、おおよそそれらとは無縁の無茶苦茶なストーリー展開。
 だが、その徹底されたアンチ芸術なアナーキズムに彩られたこの映画を見ていると分かるが、それら徹底された漫画的作風は、実は早すぎた感性だと知れるのはおおよそ10年後20年後、そして30数年が過ぎた今、現在である。


 とぼけたキャラクターというにはあまりにもアクが強すぎるインパクトを持つ桔梗を演じる仲代達也がとにかく衝撃的なのだが、実はまともなのは砂塚秀夫演じるビルだけで、あとは全員狂ってる、という壮絶的な展開には唖然。ひとりのさえない男が偶然に殺し屋を倒していく、というプロットは前半のさわりくらいで、あとはもう富士の裾野で殺し合い、狂人病棟で対決、また対決。終盤どんでん返しに次ぐどんでん返しがあるのだが、思わず笑っちゃうくらいのくだらなさ。だが、それらが実に確信的に配置され、見終わった後になにも残らないくらい気持ちのいい余韻だけが残る。


 これぞ岡本喜八特有の外連がたっぷり詰まった、というより、「外連のみ」で構成された怪作。いやあ、楽しかった。


追記:主人公・桔梗が乗ってるオンボロのシトロエン2CVて、もしかして「カリオストロの城」のぶっこわれてくシトロエンの元ネタじゃね?つーか話自体が「ルパン」ぽい。奇しくも同じ年に「ルパン三世」が「アクション」で連載開始してたりする。
 あと裏話として、あまりに当時理解されないので飲めない酒飲んでプロデューサーに絡んでたら、それが縁で「日本のいちばん長い日」に抜擢されたらしい。