虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「あらしのよるに」

toshi202005-12-11

監督・演出脚本:杉井ギサブロー 原作・脚本:きむらゆういち


「えさなら、あなたのめのまえに」


 その子は言った。



 二人が出会ったのは、あらしのよる、だった。雷が轟音を響かせる恐ろしい夜。怪我をして、あわてて駆け込んだその小屋に、「その子」はいた。姿も見えず、鼻も利かず。声だけが聞こえた。会話は弾み、雷がだいきらい、という共通点もあった。「その子」と話していると、不思議と心がなごんだ。また、あいたい、と思った。すがたも、素性もしらぬ、声だけの友達だけど。嵐のあとの晴れた明日、この小屋で会おうと約束した。合い言葉は「あらしのよるに」。


 そして、次の日。ついに「その子」と出会った。俺はオオカミ。「その子」は・・・ヤギだった。



 「食べる」ことは「生きる」こと。そして、生物にとって「食物連鎖」という真理は絶対である。この映画においてもそれは覆ることはない。その現実はファーストシーンできっちり提示したうえで、オオカミとヤギ、食うもの食われるものの、あり得ないはずの「つながり」を描いていくわけだが、そこには当然描かれるべきものがあった。食べる側の、「食欲」との葛藤である。
 オオカミとしては気弱でやさしいガブは、イノセントで素直に自分を慕ってくれるかよわいヤギのメイに、牙をむけることが出来ずに、ふたりは一緒にやまへお弁当持ってピクニックに出かける。山の途中で弁当を谷底へ落としてしまったガブは、山登りのせいもあってだんだん「ある欲望」がむくむくと大きくなっていく。空腹になるとだんだん、先をいくメイの「ふりふりお尻」*1がその、あのとても、

 
 
「うまそおおおおおぉぉぉぉ」



・・・に見えて思わずつぶやいてしまうガブ。理性と「欲望」の狭間で懸命にメイを襲うのをこらえる。やがて頂上へ着くも彼の「欲望」を抑えるものはなにもなく、仕方がないので眠ることで欲望を抑えようとするが、なんと「その子」は自分をオオカミと知りながら目の前ですやすやと眠り込んでしまったのである!くうううっっ!まさに絶好のチャンス!今すぐ目の前の「ごちそう」に襲いかかって、「欲望」のおもむくままにあんなことやこんなことをっっっっ!と考えるガブだが、葛藤している間に耳に息吹きかけちゃってそれで「うふふふくすぐったいですよーう」と甘い声を出すもんだから、オオカミさんの「欲望」はさらにふくらむのであった!!


 ・・・・えー、途中から文章がおかしくなっているように見えます。が、実はそれほど間違ってもいない。



 そう。この映画における「食欲」の葛藤は即ち「肉欲」のメタファーとなっているのです。ガブはオオカミなので、本能としては「襲いたい」。だが、「襲って」しまったら「友達」ではなくなってしまう。「欲望」と「友情」の狭間で揺れ動きながらも、ガブはとにかく友達として「その子」と「逢瀬」を重ねていこうとする。
 一方、メイも一向に襲わないガブをだんだん信頼しはじめ、やがて、「密やかな逢瀬」を心から楽しみはじめる。
 そして、二匹の「禁断の関係」は深まっていくが、やがて、その関係は、オオカミ陣営、ヤギ陣営の双方の知るところなり、厳しい立場に追い込まれた二匹は互いの長から、相手を利用して情報を引き出すように命じられる。しかし、実際会って互いの顔を見たら、そんなことできない、と知ったふたりは、川へ飛び込み、逃避行を開始するのである。


 まさに駆け落ちである。


 ガブを演じるのが中村獅童(♂)で、メイを演じるのが成宮寛貴(♂)なんだけど、成宮のユニセックスな声色が実に・・・こう、エロくてですね、中性的かつイノセントでありながらフェロモンびんびんなメイたんの魅力をがんがんに引き出してる。ガブとの会話を思い出して「あのときのガブったらうふうふふふふ」と思いだし笑いする場面や、岩に滑ってガブに助けられたときの「わたしったらそそっかしくてしっぱいばかりなんです」・・・なんてドジっ娘のごとく謝罪するときのあの色気は、どうにかしてください。


 やがて二匹の逃避行は過酷になり、やがて、冒頭のメイの台詞につながり、やがてガブはその言葉に対してある決断を迫られるんだけど、そのシーンの「寸止め」感はもう、たまらんですよ。これぞ、これぞ、まさに究極の寸止め愛だ!!!!



 まあ、こんなことを考えるのは、私が妄想たくましいボンクラ成人男子だからであって、子供たちはもっと素直に、ふたりの「友情」にハラハラドキドキできるであろうし、その点での完成度も非常に高いわけだけれど、と同時に、大人にしか理解できないメタファーを加えることで、大人の鑑賞にも堪えうる、素晴らしいファンタジーになった。と思う。


 というわけで、妄想たくましい成人男子たちよ!劇場に走れ!そして、ガブの葛藤に一緒に悶えやがれ!(いやがらせか)(★★★★)



公式サイト:http://arayoru.com/

*1:作画で参考にしたのはマリリン・モンローだそうな。エロすぎるわっ!