虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「イン・ハー・シューズ」

toshi202005-12-12

原題:In Her Shoes
監督:カーティス・ハンソン 脚本:スザンナ・グラント


 きっかけは、妹の「盗癖」だった。


 言ってみれば「ちょっとした奇跡」の物語である。


 この物語、すべては「破綻」から始まっている。自堕落で頼る人もなく、甘い姉の家に居候するモテるだけのアバズレな妹が、モテないけれど優秀で仕事のできる姉のいとしい人を寝取ってしまったことから、物語は転がりだす。


 妹・マギーを演じているのはキャメロン・ディアスなんだが、「肉体」が彼女だからマギーはもてもてでもその「中身」は完全な社会不適応者のそれだ。ものを片付けられない、仕事は続かない、他人の靴を勝手に失敬*1、お金を取るのも平気で、他人の家に入ると必ず戸棚をあさって金を探し、寝た男から必ず金を引き出そうとする。再婚してからも住まわせてもらっていた父の家からも追い出され、転がり込んだ先の姉・ローズも、度重なる被害についにキレ、妹を家から追い出す。


 行くあてのないマギーが向かった先。それは「存在」すら知らなかった祖母のところだ。実は父の再婚先でいつものように戸棚を漁っていたら、彼女たち姉妹に宛てた祖父母からの手紙が出てきたのだ。祖母・エラ*2と出会ったマギーは、祖母がつれあいを失ってから住んでいる老人ホームで生活を始める。
 一方、妹と恋人、両方に裏切られ、傷心な姉は恋人も所属していた弁護士事務所を辞め、犬の散歩屋などをして過ごしていた。


 姉と妹、それぞれの居場所を探す二人に、それぞれ転機が訪れる。


 破綻から道が開けることもある。妹は祖母に勧められ、老人ホームの仕事を始め、そこで元大学教授の老人に代読の仕事を頼まれる。難読症というコンプレックスを持っていた彼女は、その老人のアドバイスもあって難読症を克服し、その事で人生に自信を持ち始める。
 一方、姉は、かつての事務所の同僚・サイモンと再会し、一緒に出かけるたりするようになると、彼の人柄に次第に惹かれていき、二人はほどなく、恋愛関係となり、婚約するに至る。


 しかし、妹は姉に連絡を取ろうとはせず、姉も彼女を追い出したことを後悔しながらも、彼女を探そうとはしなかった。そんな彼女たちをつなげたのは、祖母の存在だった。


 やがて明らかになる、母を巡る、祖母と父との確執。交通事故で死んだとされていた、母の死の真相。
 瓦解していた家族が、それぞれの傷を認識することで、ゆっくりと再生に向かっていく。


 こういう小さな奇跡を誠実に紡ぎだすことで、妹と姉の破綻の物語は、姉妹の成長とともに家族の再生の物語へとシフトしていく。ささやかでありながら、確実に一歩を踏み出すそれぞれの姿を、脚本のスザンナ・グラントが、女性の目線から見たリアリティを保ちながら描き出す。
 ほわっとするような、女性ドラマ、そしてファミリードラマの佳作。(★★★)


公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/inhershoes/

*1:女性にとっては最悪の行為らしいね、これ。

*2:シャーリー・マクレーンが好演。