虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ALWAYS/三丁目の夕日」

toshi202005-11-06

監督:山崎貴 原作:西岸良平



 「リターナー」以来3年ぶりとなる山崎貴監督の新作は、なんと「三丁目の夕日」の映画化である。


 この映画の舞台は1958年。山崎貴監督はその5年後の1963年生。つまり、その時代の実感からは少し遠い。叩き台としての西岸良平先生(1947年生まれ)の優れた原作があるとは言え、この映画がファンタジーになってしまうのは避けられない。しかし、山崎貴監督にとってはそれは大正解であった。


 山崎貴監督は、時流に流されやすいというか、ひとつの作品の影響を受けやすい人で、それがこの人の長所でもあり、短所だとも思う。前作は「マトリックス」にもろに影響受けまくって、ハードなタイムパラドックスSFを目指したはいいが、ハードな題材と甘ったるいプロットがかみ合わず、見事に破綻してしまっていた。
 で、今回はなにに影響を受けてるかっつーと、モロに「オトナ帝国の逆襲」*1である。


 この映画の白眉は、昭和33年を「時事」ではなく、「風俗」によって描こうとしたことにある。


 優れた原作を叩き台として山崎貴監督が生み出したのは、圧倒的なディテールで描き出した「昭和33年の夕日町」という名の「箱庭世界」である。とにかく、昭和30年代的物質で埋め尽くした、その圧倒的な「昭和30年代」感を「演出」してみせている。ここで重要なのは、当時の町並みの再現ではなくて、昭和30年的な「記号」の集積によって時代を「戯画化」していることだ。言わば、「昭和30年代」をテーマパークとして、提示してみせたのである。
 まるでイエスタデイ・ワンスモアの20世紀博のように。


 あともうひとつ重要なのが、この「世界」最大の「記号」・「東京タワー」の使い方である。昭和33年に完成した東京タワー。それが映画が時を重ねるごとに、「建設」が進んでいくんである。そして、東京タワー建設という「物語」を、日常の向こう側に配置することで「時事性」を獲得すると同時に、あの「三丁目の夕日」が恐るべき娯楽大作としての風格すら漂わせはじめる。
 これには正直「やられた」と思った。クライマックスで完成した東京タワーときれいな夕日の向こう側に、われわれの「時代」がある。つまり、箱庭だった「世界」と現代がラストで、ぴたりとつながってしまうんである。


 いやもうね、震えたね。
 上映時間が2時間半近くもあるんだけどさ、ぜんぜん退屈しなかった。もうずっとここにいたいと思わせる、強烈な「気持ちよさ」だった。ストーリーは、細かな改変はあれど大筋では原作を踏襲しており、物語と監督の個性との親和性もばっちり。気持ちよく世界に浸りながらクライマックスの夕日を見つめることができた。


 まあ、キャスティング面にいささか文句がある*2んですが、淳之介役の須賀健太くんのような逸材を起用したりと、見るべき点もあるのであえて言うまい。この映画の世界の完成度に比べれば細かなこと。あえて「必見」と声を大にしよう。この映画、是非、是非劇場で見てほしい。こじんまりとした集団人情劇の向こう側に広がる世界は、むしろ大スクリーンでこそ味わうべきだと思う。昭和「ファンタジー」の秀作である。(★★★★)


公式ページ:http://www.always3.jp/

*1:正式名『映画クレヨンしんちゃん/嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』

*2:特に小雪はミスキャストだと思う