虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「サマータイムマシン・ブルース」

toshi202005-09-09



公式ページ


 とある夏の、田舎大学。そこにあるSF研究会は、研究とは名ばかりで何の活動もしていない、典型的な文科系ボンクラサークル。今日も今日とて暇を持て余して野球に興じ、風呂に入って、馬鹿話に花を咲かせる。いつもと同じ夏の一日のはずだったが、その日はちょっとおかしいことが起こっていた。そして、最悪の事件は起こった。偶然が重なって、部室のクーラーのリモコンがぶっ壊れてしまい、クーラーが動かせなくなってしまったのだ。部室しか行き場の無い彼らにとってこれは、死活問題だ。
 翌日、クーラーが動かずうだるような暑さの部室で、暑い暑いと騒いでいる彼らの前に突然現れたのは、なぞの機械とそれに乗ってきたなぞの青年。青年は部室を飛び出してしまい、残ったのはその機械だけ。なんと、その機械は…タイムマシンであった。


 ・・・てな話。


 いや、実はぜんぜん期待してなかったんですけどね。ギャグがいちいち寒々しい予告編のせいで、印象最悪で。むしろ不安の方が大きかったんですけど、見終えた今、言える。これは本広監督の最高傑作。


 まあ、序盤あたりはぜんぜん不安を払拭するには至ってなかったんですけど。小ネタをいろいろ仕込むことで有名な本広監督だけに、小道具大道具は結構凝っていて、秀逸なキャストも含めて、文科系サークルの怠惰な日常の風景を切り取ることには成功してるんだけど、編集で遊びを入れたり、シーンの合間やなんやらに効果音を多用したりとせわしい事せわしい事。そのせわしさのせいで、物語と演出がうまくかみ合わずに思い切り空回ってる。大体話自体はオーソドックスなんだから、演出が遊ぶ必然性などないので、画面がうるさいだけ。どうなるんだろう、と思いながら見ていたんだけれど、タイムトラベルSFとして展開し始める中盤から、ようやく演出と物語の歯車がガチーンとかみ合い、映画はタイムパラドックスコメディとして俄然輝きを帯び始める。


 原作はヨーロッパ企画という演劇集団の戯曲。世界観は大学の部室とその周辺、行き来する時間は昨日と今日、というこじんまりとしたものだが、SFとしてはかなり本格的。最小1日単位でしか移動できないタイムマシンという設定や、壊れてないリモコンを取りに行ってしまう「タイムパラドックス」に無知な連中が、その概念を知っててんやわんやする、というアイデアも秀逸。序盤で描かれたゆるーい日常に潜む伏線が見事に埋まっていく*1終盤の展開は、「おおおっ」と大興奮。
 どたばたの顛末の、その着地のさせ方も素晴らしく、未来の1ページを知ってしまった青年のちょっとほろ苦い結末も含めて、お見事。これはもう脚本の勝利としかいいようがない。前半の空回りをリカバーして余りある、タイムトラベルSFの秀作。(★★★★)

*1:そんな展開でも「ゆるーい」空気が変わらない点も素晴らしい